境 真良(さかい・まさよし)
1968年、東京都生まれ。国際大学GLOCOM客員研究員。経済産業省に本籍を置きながら、産官学それぞれでコンテンツ産業や情報産業、エンターテインメント産業の研究を行う。著書に『テレビ進化論』(講談社現代新書)、『Kindleショック』(ソフトバンク新書)ほか。
(絵/小笠原 徹)
コンテンツ産業という観点から見れば、今の日本の映画界は低迷しておらず、むしろ大健闘しているといえます。いわゆる戦前から続いた“日本映画”の流れというのは70~80年代に死んだ状態でしたが【編注:年間興行収入で洋画に倍以上の差をつけられることが続いた】、90年代後半から映画館はシネコンへと転換し、製作面ではフジテレビをはじめとするテレビ局映画の成功で映画界は痛みを伴う改革に成功し、ゼロ年代に再躍進を見せました。テレビ、DVD、動画配信など他にもさまざまな映像コンテンツがある中で、1900~2000億円規模のマーケットを維持しているのは大変なこと。しかも海外ではほとんどの国がハリウッド作品に占拠されているか、外国映画の輸入を国が規制しているのに対し、そうした規制のない日本は邦画が興収で上回っている。日本映画の善戦を讃えたいですね。
一方、“映画人”と呼ばれるような人たちは原作ものやシリーズものではないオリジナル企画に理想を求めがちですが、あまりそこにこだわりすぎないほうがいいように思います。オリジナル企画を成立させるために、例えば監督に三池崇史、脚本に宮藤官九郎といったネームバリューのあるスタッフを起用する考え方もありますが、三池監督もクドカンも映画以外の多彩な分野で活躍していることで知名度があるわけで、出版界やテレビ局を巻き込む映画の企画と考え方は一緒。だから、あらゆる意味で「映画だけ」で作品の成功なんてあるわけない、という考え方が大事だと思います。
したがって、日本映画が海外マーケットで成功するかと問われれば、それは簡単なことではないといえるでしょう。現代ではコンテンツビジネスを成功させるにはプロモーションが欠かせない要素です。日本映画が国内で成功しているのは、テレビ局が自社で製作した映画を公開直前に大々的にプロモーションするとか、観客を「観よう」という状況に置けているから。海外で成功させるためには現地で同じように観客を誘いこまなければいけません。日本の場合はジャニーズなどタレント事務所の力が強いため、主演俳優を海外で長期間拘束するのが難しい。韓流ブームの初期は、韓国では芸能事務所の力が当時まだ弱かったから、製作側主導で韓国映画の大々的なプロモーションを展開できたんです。