建設業界のパンドラの箱
2020年の東京五輪開催に向け、内需拡大と景気浮上が期待される中、その勢いをそぐ問題が建設業界ではすでに起こっているという。このままでは五輪関連施設の建設どころか、東北の震災復興事業も立ち行かなくなる懸念が出てくる、この「問題」とは何なのか? それを解決すべく安倍政権が開こうとしている“パンドラの箱”とは?
『外国人労働者受け入れは日本をダメにする』(洋泉社)
安倍政権はこのほど、外国人労働者を大量に受け入れる労働市場の規制緩和に乗り出す方針を明らかにした。
1月24日、閣僚会議で菅義偉官房長官が「建設業が構造問題に直面し、人材が枯渇する恐れがある。即戦力になり得る外国人を活用したい」と切り出すと、その場であっさりと閣僚の同意を取り付けた。これを受け、2015年度に新たな受け入れ制度をスタートさせるという目標を掲げ、今年3月末までに対応策を打ち出すことまで決めた。なんとも性急なこの動きについて、自民党関係者が解説する。
「政権内には、20年の東京オリンピック・パラリンピックの成功しか頭にない。ところが、巨大な競技場を都内に10カ所以上もつくるというJOC(日本オリンピック委員会)の現行プランに沿って作業ロードマップをつくってみたら、今年中に建設事業に着手しないと間に合わないことがわかってきた。そこで、『人手がないなら、外国人の手を借りたらいいじゃないか』という安直な構想が浮上してきた」
建設業界といえば、東北地方の被災地復興、さらに全国各地の橋や道路の改修工事に代表される防災工事に追われ、深刻な労働者不足に陥りつつあるといわれる。そんなところへ昨秋、オリンピック開催が決定した。では、後発工事であるこの五輪関連施設の建設現場に外国人を雇い入れるかといえば、そうではないらしい。政府の動きをつぶさにウォッチしているゼネコン幹部が、そっと打ち明ける。
『外国人労働者』
厚生労働省によると、2013年10月末現在の外国人労働者数は71万7504人。前年同期5.1%の増加で、国への届け出が義務化された07年以降、最高を記録している。
「東北に駆り出されている熟練の建設労働者を一斉に東京に呼び戻し、五輪会場づくりに専念させる。その穴埋め要員として外国人を被災地に大量投入するもくろみなんだ」
ここでひとつ、外国人労働者の是非を問う前に、念を押しておきたいことがある。それは、日本の建設業界の人手不足が、もはや回復などできないところまで悪化しているという事実だ。建設業界に詳しいジャーナリストの話。
「小泉純一郎政権の頃から公共事業はどんどん削られ、働き盛りの職人たちは次々と建設現場から去っていった。いまや、この業界は農業と並び称されるほどの高齢化産業。いきなり震災復興だの防災工事だのといわれても、転業した職人たちはもう戻ってはこない」