――一瞥すれば瞼に焼きつく、鋭利な顔立ち。それでも本人は、「何色にでも染まる」とニヤリ。猟奇殺人鬼から猫を抱く侍、横山やっさんまでブレずに演じきる怪優が本誌で静かに大暴走。
(写真/江森康之)
「ヤバい映画」って、僕が出ている作品ではないんじゃないかな。というのは、近年の国内作品ですと本当にタブーを描いているようなシーンは全部カットされちゃいますよね。例えば、三池崇史監督の『ケンカの花道』やVシネマの『新・悲しきヒットマン』など、裏社会をリアルに描いた作品もありましたが、「暴力」や「差別」の表現規制で、重要なシーンはお蔵入りしています。そういった現在の規制というものに対して、僕たちはもっと考えなければならないのかもしれない。クサい物にフタをして、キレイにして……という世界に住んでいたら、人は何も考えられなくなる。昔は『犬神家の一族』のような惨殺シーンがあるような映画を誰でも観られる環境があり、それを観た小学生が「犯人みたいなヤツになりたくない」とか判断したりするわけです。このまま目隠しみたいな社会が広がると、今の子どもはそういう判断ができなくなるんじゃないかな。
その点、今公開している僕の出演作『KILLERS/キラーズ』【1】の監督は違いましたよ。かなり猟奇的なシーンもありますが、自国でのR指定、公開の有無など気にしていません。「アメリカでもマレーシアでも公開できるから大丈夫だよ」と。つまり、表現を規制されるような狭い視野で生きてない。世界をターゲットにすえている。僕が演じる主人公の野村は、理由もなく女性を惨殺して、その様子を淡々と撮影し、動画サイトに公開する――。台本を読んだときに、まったく共感できる要素がなく、監督に「この作品で何を表現したいのですか?」と聞きました。すると、監督は冷静に「日本を含めたアジアで、こんなすごい映画が撮れるということを世界に発信したい。低予算で技術力やセンスを伝えるには、このジャンルが適しているんだ」と言うんです。この点には、同じアジア人として、すごく共感できるところがあり、それならばやってみたいと決意しました。
個人的に『キラーズ』の見どころを言わせてもらうと、オープニングの映像と音楽がシンクロするセンスが絶妙です。過激なシーンですが、例えば『冷たい熱帯魚』とも、まったく別物で、どこかはかなく美しい。うちの事務所の女性スタッフも「スプラッターは苦手だけど、この作品は大丈夫」と言っていましたよ。僕にとっても台本からはまったく想像できなかった新しい映像体験でした。