『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神Lマガジン)
いよいよ雑誌の時代が終焉を迎えようとしている。
出版科学研究所が12月25日、2013年出版物の売り上げは書籍・雑誌合わせて1兆7000億円を下回り、書籍は8000億円弱、雑誌は9000億円弱にまで減少すると発表した。この数字を見るだけで、雑誌は終焉といえるだろう。
1970年代後半からは雑誌の売り上げが書籍を上回り始め、「雑高書低」と呼ばれる"出版流通の主役は雑誌"という状態が約40年間続いてきた。雑誌の売り上げが書籍を上回り始めたのは1976年。当時は書籍が5200億円、雑誌が5435億円とその差はわずか約235億円に過ぎなかった。
雑誌の売り上げだが、ピークだった1997年には、その額1兆5644億円であり、書籍の売り上げがピークだった1996年の1兆931億円に比べて、その差は5000億円弱にまで広がっていたのである。雑誌の黄金期といわれるのは1980年~90年代。「週刊少年ジャンプ」(集英社)が雑誌としては最大部数となる653万部を記録したのも90年代半ばのことである。
その後の凋落から16年経った12 年には、なんとその差が1000億円にまで縮まった。16年で実に6359億円もの売り上げを失い、書籍の倍以上のスピードで市場を縮小させていった。出版不況などというが、むしろ雑誌不況と呼ぶほうが実態を正確に表現しているのかもしれない。
雑誌の年平均の減少額は約400億円。書籍の直近3年の減少額は200億円以内に落ち着いているので、3~4年後には「雑低書高」の時代に入るのは間違いないだろう。
なぜ、ここまで雑誌に未来がないのか。出版科学研究所の調査数字を見れば、一目瞭然だ。まずマイナス成長となった98年から、今まで1度たりとも年間売り上げはプラスになったことがない。書籍は02年、04年、06年の3度プラスに転じている。これはひとえに「ハリー・ポッター」(静山社)シリーズのブームによるものと見られている。
さらに推定販売部数がひどすぎる。ピーク時の95年には年間販売部数が39億冊もあったのだが、12年には18億冊と半数以下になってしまった。購買動向をみる上では、売り上げ金額よりも販売部数が如実に実態を示す。まさに売れなくなった雑誌の実態が明らかになっている。
また、この時期恒例ではあるが、取次会社の新年会で年末年始の書店売り上げ動向が発表された。それを見ても、雑誌は目も当てられない状態だ。書籍は数%程度のマイナスで下げ止まり感もあるというほど事態は落ち着いてきたが、雑誌は、月刊誌や週刊誌という定期誌が2桁減という有様だったのだ。
インターネットをはじめとする情報入手手段の拡大や中小書店などの販売拠点の減少などが、雑誌が売れない要因といわれている。それでも雑誌の売り上げの多くを担ってきたコンビニエンスストアは、店舗数を拡大させており、14年は5000店近い出店を予定しているという。それほどコンビニは増えているにもかかわらず、コンビニ1店あたりの雑誌売り上げは減少しているのだ。
まして、東日本大震災という未曽有の災害があった11年は大きく前年を割ってしまうのはわかるが、12年、13年共にそれ以上に落ち込んでいるのだから、もはや二の句が継げない。ここまでくれば、一誌一誌の雑誌が良い悪いというレベルの話ではない。雑誌というメディア、媒体の価値・機能そのものに問題があるのだ。
ちなみに、出版社は雑誌の売り上げ減をムックという商品の乱発によってカバーしようとしているが、その多くは成功していないのが現状だ。定期的に販売される雑誌は売れないから、書籍のように単発で雑誌のような作りの商品で売り上げをカバーすることに血眼になっているのだ。そのためか、雑誌の創刊点数も2年連続(12、13年)で100点を下回るそうだ。しかも、創刊される雑誌のほとんどがパートワーク誌、パズル誌、アダルト誌ばかりという。さらに休刊点数は創刊点数を上回り続けているという状況にある。
雑誌出版社の人たちは今、雑誌のメディアとしての役割を必死になって考えると思うが、それと同時にこれからは雑誌流通の減少によって出版流通に与える影響についても考えていく必要があるだろう。
というのも、日本の出版流通はアメリカと比べて、決定的に異なる特色がある。アメリカでは雑誌は書店ではなく、スタンドと呼ばれる売店で売られているのがほとんど。日本のように書店が扱うことはほとんどない。しかし、日本の書店では雑誌も書籍も扱うことで、高度で緻密な出版流通網を日本全国に構築した。ほぼ毎日、雑誌が発売され、全国津々浦々の書店などに、発売日までには必ず送り届けられる(発売日が地区によって異なるが)。そこに便乗するかたちで、書籍は安価に全国の書店に届けることが可能になっているのだ。
定期的に高頻度かつ一定以上の物量があれば、物流業は成立する。人口の少ない地方では取次各社が相乗りして輸送会社に出版物を配送してもらう「共同配送」という仕組みもある。しかし、出版界がこうした前提条件を満たせなくなると、配送コストの増大が懸念される。客注品を書店に届ける仕組みが取次会社にはあるが、少数の商品を迅速に届ける場合、書店は別途コストを取られている。それと同じ理屈だ。
このまま、雑誌の物流が減っていくとどうなるのか? 当然、出版輸送コストが上昇するなどして、出版社にそのシワ寄せがくるのは確実だろう。そうなれば、出版社は定価を上げなくてはならなくなる。読者にそのツケが回ってくることになるのだ。
これは遠い将来の話ではない。すでにトラック協会では、燃料費の高騰に加えて、増え続けるコンビニへの雑誌配送に関するコスト増が問題になっているという。コンビニの店舗数が増え続けても、1店当たりの雑誌の売り上げは落ちているため、配送先が増えれば増えるほどコストは膨らんでしまうというのが輸送会社の言い分だ。今後、各輸送会社は取次や出版各社とコスト増の問題について話し合っていくそうだ。
市場規模が今よりさらに半減したら、もはや現在の出版物流は立ちいかなくなるだろう。その意味で、楽天を含めた出版業界外の新しいパートナーとの協業が必要になるのだろう。出版社と取次と書店という3者はこれまで書籍・雑誌販売の主流の取引先であった。しかし、この3者によるレベニューシェアのビジネスは破綻し始めた。大日本印刷や凸版印刷、または他の企業の傘下に書店や出版社が入っているのは、3者の取引だけでは経営が維持できなくなっているからだ。これからこの3者は新しい別のパートナーや取引先とともに、新たな業態に転換していくのかもしれない。
(文/佐伯雄大)