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第1特集
お経と声明と念仏と――仏教音楽の歴史【1】

賛美歌なんぞに負けちゃいねえぜ! お坊さんが歌う"仏教ソング"の歴史

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──「宗教と音楽」というと、グレゴリオ聖歌以来の長い伝統を持つキリスト教の賛美歌だけだと思っていませんか? でも実は、そんなことないんです。我らが仏教にも、「声明」をはじめとするさまざまな仏教音楽のながいながい歴史があるんです! いざ、仏教音楽で涅槃の境地へ!

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声明用の楽譜である“博士”がついた四智梵語の最初のページ。

「宗教と音楽」と聞いて何を思い浮かべるかと問われれば、今や多くの日本人はキリスト教の賛美歌だと答えるかもしれない。しかし、実は我が日本の仏教も、この賛美歌と似た宗教歌を持っていることをご存じだろうか?

 声明(しょうみょう)。この耳慣れない“音楽”はお経にメロディーが付いたもので、仏教寺院で儀式の際に僧侶が1人、または複数人で唱える、いや、歌うもの。釈迦の教えを讃える仏教の聖歌であり、釈迦の誕生日や入滅日など重要な法要が行われる日のための祈りの歌といってもいい。さまざまな形でどの宗派にも存在するが、日本においては長らく、真言宗の「真言声明」と天台宗の「天台声明」の2つがメインストリームとなってきた。

 歌唱法も独特だ。基本的には西洋的な“歌声”ではなく地声を使い、息づかいの強弱でメロディーを生み出していく。歌詞をメロディーに乗せるというよりも、ゆっくりとした節回しをつけながら一音一音が波状に連なっていくような印象だ。聞きようによっては、浪曲や演歌のように思われるかもしれない。

 一曲の長さは曲目によりまちまちだが、なかには30~40分というものも。たとえば、もっともポピュラーな声明のひとつ、大日如来を讃えた「四智梵語」は、38の漢字音からなる1曲を唱えるのに6分ほどかかる。なお、この「四智梵語(しちのぼんご)」は真言宗豊山派の総本山、長谷寺に伝わる声明だが、他宗派の法要で唱えられることも多い。

 一方、声明の“歌詞”の元となっているお経のほうは、仏や釈迦の教えを記録した仏教の聖典であり、仏の説法を再現・追体験するために読まれるもので、読み方に抑揚はない。ただし、節をつけたほうが読みやすく暗記もしやすかったためか、実際は、「般若心経」のように唱える宗派の多い経典であっても、宗派ごと、あるいは寺院ごとに微妙なリズムの差が生じる。

 さて、一般人が声明を聞く機会といえば、法事や葬儀のときとなる。とはいえ、僧侶が自由にある1曲を選んで披露するといったものではなく、各宗派共に、儀礼ごとに式次第のような一連の流れが決められている。たとえば真言宗豊山派の法事・法要で使用される「二箇法要」には、いくつかの声明とお経などが順を追って記されている、というわけだ。

 では、この声明はどのような歴史を持っているのだろうか? まず、そもそものルーツは仏教誕生の地であるインド。紀元前5世紀に生まれた仏教が発展していく中でお経も整理されていき、そのお経を読む際に自然発生的に節が付いたものが声明として進化していったのだろうと考えられる。紀元前1世紀頃に仏教が伝来した中国においてもまた独自の進化を遂げたので、その後中国、朝鮮半島を経由して6世紀半ば頃に日本に仏教が伝来した際には、声明はすでにかなり体系だったものとして確立されていたわけだ。

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