『ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者』(日経BP社)
近頃、「書店が消える……」というニュースを目にする機会が多くなった。紙の書籍が売れないご時勢、といってしまえば、身も蓋もないが、神戸の海文堂書店などの老舗・有名書店が閉店するたび、新聞・雑誌・ウェブニュースでは「中小書店の危機」などという見出しで、こうした事実について報じている。
まだニュースとして報道されてはいないが、スーパーチェーンのサミットが運営する書店・ブックスゴローも来年9月までに全店を閉鎖し、書店事業から撤退するそうだ(スーパーのレジ前にある雑誌コーナーは残すようだが)。同じく、群馬でスーパーを運営するフジタコーポレーションも2013年11月、子会社の書店・ファミリーブックをレンタル大手のゲオに譲渡すると発表した。ファミリーブックは今期、最終赤字に陥っており、サミットにしても、フジタにしても、本業の強化とともに"お荷物な赤字事業"を切り離したいと考えたのだろう。
話が少しそれたが、書店の閉店、とくに老舗の中小・零細書店の閉店を取り上げた記事に、違和感を覚えるのは私だけだろうか?
例えば、先日産経ニュースに掲載された海文堂書店の閉店記事(2013年8月14日付『神戸「海文堂書店」来月末閉店へ 老舗、100周年目前に無念』)では、「インターネット販売の普及と大型書店の進出などにより」売り上げが悪化し閉店したと書いていた。確か、札幌のリーブルなにわの本店が閉店する記事(2013年3月9日付『なじみの書店また一つ… 札幌「リーブルなにわ」来月閉店』※現在は記事が削除)でも、「ネット販売の普及により、影響を被った」と書いていたように記憶している。
書店の経営者が閉店を決断する理由はいくつかある。「後継者がいない(子供に継がせたくないも含む)」「赤字で続けられない」「先行きが不透明なため、世間に迷惑かけないうちに(黒字のうちに)辞める」……などだ。当然「赤字でこれ以上続けられない」というケースが最も多い理由だ。こうした中小書店は、この手の記事でいつも上げられる「ネット書店の隆盛」の影響で、ネット書店に客を奪われて、赤字になってしまったのか? 果たして本当にそうなのだろうか?
中小書店の多くは、雑誌・コミック・文庫が売り上げの3本柱といわれている。売り場が100坪以下になればなるほど、雑誌の売上構成が高くなり(多い店では構成比50%以上)、コミックや文庫(ともに同20~30%)と続く。これまで小さな書店は、雑誌の売り上げで飯を食ってきたのだ。その売り上げに比べれば、文芸作品などのハードカバーの単行本が占める割りはグッと少なく、せいぜい4~5%程度になる。
一方、アマゾンのサイトを見てみると、単価の低い雑誌はあまり力をいれて扱っていない(週刊マンガ誌を置かないなど)。アマゾンは、圧倒的に書籍を売ってきて、ナンバーワンの書店になったのだ。アマゾン以外に、楽天ブックスをみても定期購読システムはおろか、単品で扱っている雑誌も少ない。唯一、富士山マガジンサービスが、定期購読や一部売りでネット販売をしているに過ぎないのだ。
その上、アマゾンが日本に上陸したのは2000年11月。中小・零細書店の閉店はその前から始まっており、最も象徴的だったのは2000年1月に破たんした大阪の駸々堂だ。取次の日販は、その影響で当期の決算が赤字となり、朝日新聞夕刊の1面トップで経営危機が報じられたのをご記憶の方もいるだろう。
個々の書店によって、赤字に陥った理由は異なる。だが、共通しているのは雑誌の売り上げ低迷による余波である。雑誌市場の売り上げは1997年以来、2012年まで右肩下がりを続けている。2013年もマイナス成長になるのは確実だ。その雑誌の売り上げが大幅に落ちているのだ(同時に配本部数も減ってきている)。中小書店に長く務める書店員に話を聞くと、「かつては毎週月曜日には『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)と『週刊東洋経済』(東洋経済)が何十部も入って、『JR時刻表』(交通新聞社)も外商で飛ぶように売れた。だけど、それは昔のこと。「コンビニエンスストアで雑誌を取り扱うようになってからというもの、もはや雑誌は数えるほどしか入ってこないし、入ってきてもそれほど売れない」というのだ。
今日では、雑誌はコンビニで買うものと思ってる人も多いだろう。裏を返せば、中小書店はコンビニに「飯となる雑誌」を奪われたといえる。中小書店をまず苦境に立たせたのはコンビニなのである(今やそのコンビニの雑誌の売り上げもガタガタだが)。
そして、中小書店が店舗を構える地方の商店街では、大型ショッピングモールや郊外店の出店などによる商圏変化でシャッター商店街化し「購入客が減少」。都市部では、駅前に大型書店が出店し、「来店客が減少」した。中小書店は、雑誌をコンビニに奪われて、次にコミックや文庫を大型書店や郊外店に奪われていったのである。売り上げの3本柱がこうも奪われてしまうと、まともに商売はできない。ネット書店の影響は、疲弊した中小書店には、それほど大きなインパクトを与えなかったのではないか? むしろ、先の理由から、ネット書店は書籍を中心に売っているジュンク堂書店や丸善、紀伊國屋書店などの大型書店に影響を与えているのではないだろうか?
ネット書店が出るまでもなく、元々、街の書店は消えかかっていた。それを潰したのは、当の書店でもあるが、取次とよばれる出版物の卸会社が理念もなく、ただただ販路を広げた結果であるように思えることも添えておこう。
「人がいるところに物を流すのが物流会社の使命である」と取次会社の人は言う。だが、果たしてそれだけでいいのだろうか? そんな考え方だけでは、世の中の郊外店はTSUTAYAかゲオ、駅前にはジュンク堂書店、紀伊國屋書店、丸善などの大型店ばかり、という光景しかみられなくなるかもしれない。ゾッとする話である。
(文/佐伯雄大)