――大学や専門学校では「発想・ストーリーの起こし方」「キャラクター設定の方法」「ネーム・演出のテクニック」「作画技術」「仕上げ・投稿」まで、マンガ制作のための"てにをは"を教えてくれる。そこでここでは実際に、大阪総合デザイン専門学校漫画学科学科長・谷口氏の講義を覗いていただこう。
■『二十世紀少年』より素晴らしい!"マンガ学的"良作品
『Happy!』
浦沢直樹/小学館(93~99年)/全23巻
作品紹介
『YAWARA!』の連載終了後、「ビッグコミックススピリッツ」(小学館)編集部の要望により、浦沢直樹が再度スポーツマンガに臨んだ作品。両親と死別し、幼い弟妹の世話をする高校3年生の海野幸は、ある日、事業に失敗して蒸発した兄の借金2億5000万円を背負うことになってしまう。幸は高校を辞め、プロのテニスプレーヤーを目指すが……。"賞金のため"に戦うというきれいごとのなさや"嫌われる主人公"など、『YAWARA!』とは対照的な作品になった。しかし、本作は『YAWARA!』のようなブームにはならず、浦沢自身が、15巻のあとがきに「影の薄い作品となってしまった」とつづっている。
谷口学科長評
この作品のストーリー構成は、本当に素晴らしいと思います。決して批判するわけではありませんが、浦沢先生の『MONSTER』や『20世紀少年』には、少々話しの中盤で中だるみする部分があった。しかし、この『Happy!』にはストーリーに一切の無駄がありません。単行本にして、全23巻の作品ですが、連載を初める前に、すべてのネームを描いていたんじゃないかな、と思うくらいです。また、最終話の着地点についても、完璧だったと思います。主人公が見事ウィンブルドンで優勝することで、それまで抱えていた借金や人間関係など、すべてが解決されるように作られていました。浦沢作品としてはあまり目立ちませんが、マンガ制作のノウハウを模範的にこなした作品と言えるでしょう。