クロサカ氏が見据える情報産業の未来像とは……。
本誌の読者なら「マスコミ」「マスメディア」という単語が意味するところを、なんとなくでも理解されていることでしょう。ここでの「マス」とは、国民や市民、市井の人々全般を含む、いわば一般大衆を意味します。要は「私たち」のことです。このマスは、メディア産業のみならず、製造業や流通業など、およそマーケティングを必要とするビジネス全般で用いられる概念です。しかし、昨今のビジネスの現場では、この「マス」の崩壊が叫ばれています。
例えば私が手伝う通信業界では、固定電話の加入者数が減少する一方です。ひと昔前までは一家に一回線が常識で、企業や学校でも固定電話による電話連絡網が、ひとつの確実な情報伝達手段として用いられていました。しかし、ケータイによって電話が個人のものとなり、さらにケータイからスマホへとシフトしたことで、もはや「電話」という概念は希薄化し、情報端末と呼ぶほうが自然なほどです。
クロサカ氏新連載
通信・放送業界を支える気鋭のコンサルタント・クロサカタツヤ氏が、毎回、インターネットやテレビなどを中心に様々な分野からゲストを招き対談。価値観や社会構造の変容で再定義が迫られる「マス」について、討議する新連載が、次号(2013年1月号)より開始。乞うご期待!
その結果、かつての固定電話に代替する、誰しもが統一的にアクセスできる連絡手段が、社会から失われつつあります。LINEやツイッター、フェイスブックにSkypeなど、さまざまなサービスやアプリケーションはありますが、固定電話に比べたら、到底社会基盤とはいえません。それらを支える通信事業者は辛うじて黒字となっているものの、おそらく数年もたたないうちに、固定網の事業者の経営状況はかなり厳しくなるでしょう。
ケータイも過当競争が続き、ドコモ、KDDI、ソフトバンクという3大キャリアが、こぞってiPhoneを取り扱わざるを得なくなりました。その結果、iPhoneは売れるものの、キャリア自身の付加価値は、エリアや通信速度といった回線部分にしか見い出せません(それも事故が多発して品質は低下しています)。いわゆる「土管化」です。固定電話も含めて、統一的な社会基盤と見なせる通信手段はなくなり、それぞれが好きなものを好き勝手に使う、という状況が生まれています。