『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』
(小学館文庫)
医療法人徳洲会グループの公職選挙法違反事件で、親族らが逮捕された自民党の徳田毅衆院議員が、今月11月13日に離党届けを提出。14日に受理された。
徳田議員は徳洲会グループの徳田虎雄前理事長の次男で、2012年12月に行われた衆議院選挙の選挙活動の際、動員された徳洲会病院の職員らに金銭が支払われたとして、公選法に問われていた。そして12日、東京地検特捜部と警視庁、鹿児島県警によって徳田議員の姉2人とグループ幹部4人が逮捕されるに至ったのだ。
徳田議員といえば、全身の筋肉を失う「筋萎縮性側索硬化症」という進行性難病の悪化で05年に衆議員を引退した父・虎雄氏の跡を継いだ二世議員。今回のような公選法違反は、以前から行われていたという。
「実は、前回の08年の選挙時になりますが、私も徳洲会に勤務していた頃、1週間ほど選挙運動にかり出されていた職員のひとりです。1日3000円の日当のほか、出張手当などが支給されました。しかし、当時はそれも研修の一環と思っていたので、選挙違反とは考えていなかったんです」
そう話すのは、徳洲会病院に20年以上勤務し、事務長まで努めた元職員の男性A氏だ。彼の説明によると、離島医療や過疎地医療に取り組む徳洲会は、普段から系列病院の医師、看護師、事務職員らを鹿児島にある本部に派遣してさまざまな“研修”に当たらせているという。その研修期間が選挙期間と重なれば、住民を対象にした医療セミナーの場などで選挙の話をすることもあり、どこまでが選挙活動とされるのか、当事者たちもその線引きがわからないのだそうだ。
「私たちはあくまでも地域医療を支えるための活動と思っていましたから、その点を特捜部はどう解釈するかですね。まあ、周囲では、有権者の投票用紙を徳田派の運動員が買収して投票するといった、“替え玉投票”が行われるなど、選挙の度にカネが飛び交っていたことは事実なんですが……」(A氏)
明らかな選挙違反が行われる一方で、かり出されていたとされる職員たちの中には、A氏のように、“選挙活動”という認識なく活動を行っていた者は少なくないという。今回、選挙活動に参加させるために派遣された職員は全国で370人にものぼるとされているが、“選挙活動”ではなく、“研修”名目で参加していた職員の存在を考えれば、さらに増える可能性もあるのではないだろうか。
そして、それだけの人数に、1日3000円とその他の手当を付けていたとなれば、その潤沢な選挙資金の出所もまた、気になるところだ。かつて徳洲会系病院の薬剤師として勤務した経験から内部事情に詳しい薬局経営者B氏はこう漏らす。
「徳洲会は、たとえば医薬分業をしてない系列病院から上納金を集めるなど、独特の集金システムを構築しているんです」
医薬分業とは、医師は治療、薬剤師が医薬品処方という、役割分担を明確にするというもの。これには患者の医療費負担の軽減化をはかるほか、薬価差益(薬価基準による公定価格と,病院や薬局が実際に購入する価格との差額)で生じる医療機関の所得隠しや脱税などの不正防止の狙いがある。現在ではほとんどの医療機関が導入しており、診察後、医師が発行した処方箋を持って薬局で薬を処方してもらうのは、このためなのだ。ところが徳洲会では、このシステムを導入してないという。
「当然、薬価差益による利益が狙いです。もちろん建前では、徳洲会病院は救急患者も受け入れているので、薬の緊急性が高い。だからいざという時に肝心の薬が手元にないようでは困る、と言っているのですが……。しかし本音は、薬の儲けも自分たちのものにしたいってことなんですよ」(B氏)
薬価差益による利益というのは、厚労省が設定した販売価格よりも、製薬会社から安くその医薬品を仕入れた場合、その差額が病院や薬局の利益になるというものである。「この収入が、バカにならない」と医療用医薬品卸会社の関係者C氏は言う。
「かつては薬価差益が5〜6割ということもざらでした。最近はさすがに3割程度となっていますが、その分、購入した総量ではなく、単品ごとに差益を求めるようになっているので、最終的には総量に対してよりも高い差益率になっています」(C氏)
徳洲会といえば全国に60数カ所の病院、280数カ所の診療所や介護福祉施設などを展開する日本屈指の巨大医療機関。そのため、これらの施設で使われる医薬品もまた膨大な量であり、そのスケールメリットがあるとすれば、その薬価差益はますます大きくなる。しかし、医療法人第7条によって、公益法人である病院は「余剰金の配当をしてはならない」とされ、営利事業は規制されている。本来であれば、薬価差益を生むような薬の購入を、病院が行うこと自体できないはずなのだ。
「そこで、今回逮捕された徳田議員の姉で、虎雄氏の長女が代表取締役を務める『株式会社徳洲会』という別法人を設けて、同社が一括購入を行っていたんです」(B氏)
医療法人が別法人を設立することをMS(メディカル・サービス)法人という。同法人の設立趣旨は収益事業の多角化のほか所得の分散化、高い税率の軽減化といった課税対策にある。そのためほとんどの医療法人はMS法人を設立し、病院の受付業務、売店、リネンサービス、レストラン、不動産管理業務、医療機器のリースなどの事業を手がけている。
そして徳洲会の場合は、これらの収益事業を親族で仕切っているのだ。結果、脱税や所得隠し、私的流用の温床ともなり、国税局の告発もしばしば受けてきた。
「そもそも徳洲会がおかしくなったのは、政治に手を染め、徳田ファミリーが病院経営に関与したのが原因なんですよ。医療法人を私物化するなど、もってのほかです。実は徳洲会内部では、徳田ファミリーを徳洲会から切り離し、本来の姿に戻そうとするグループと、これに反発する側近グループが暗闘を演じている最中なんです」(前出の元事務長A氏)
さらに、こうしたMS法人のほか、“系列”として吸収された病院にも「年間所得の3%を徳洲会本部に上納する義務を与えている」(徳洲会の傘下病院になった元病院経営者・D氏)という徳洲会。当然、腹の中に怒りを溜め込んでいた病院長は少なくなかったのだろう。今回の特捜部の捜査、徳田虎雄氏の理事長辞任などでグループ全体に動揺が走る中、「違法な政治活動には今後一切関わらない」などの声明文を系列病院に配布し、虎雄氏の方針に公然と反旗を翻す病院長も現れはじめている。
今回の騒動はあくまで徳田毅議員の公職選挙法違反問題。しかしこれを契機に、長い間体内に溜め込んできたであろう徳洲会のウミを出し切り、徹底的に体質改善をはかって出直すことをおすすめしたいものだ。
(島村 玄)