「Scene」より《道-サイパン島在留邦人玉砕があった崖に続く道》(2003年/東京都写真美術館蔵)
歴史上、有名な事件が起きた場所は世界中にあまたあるが、実際にそうした場所へ足を運んでみると、事前に抱いていたイメージとのズレに戸惑うことが少なくない。凄惨な事件の現場が美しい風景であったり、なんの変哲もないありきたりの風景であったりする。たいていの場合、設置されたモニュメントがそこを特別な場所として指示するのみだ。こうした風景は歴史的な出来事から時間が経過した後の事後の風景であるがゆえに、あらかじめ抱いていたイメージを裏切る。
「積雲」より《馬・避難した村、飯舘村・福島》(2011年/作家蔵)
米田知子の写真が提示するのは、そうした事後の風景と言うべきものである。その多くは日常的な風景であるにもかかわらず、そこに添えられた言葉が最初の印象、つまり事前のイメージを瓦解させる。前述のような経験とは逆のプロセスを踏むのである。