雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。
『ザ・バトラー』
1920年代のアメリカ南部、綿農園で働く一家に生まれたセシル・ゲイン(フォレスト・ウィテカー)は、農園のオーナーに母親をレイプされ、それに激高した父親を射殺されてしまう。北部へと逃げ出したセシルはホテルの給仕係を経て、ホワイトハウスの執事として働くこととなる。34年間、大統領のそばに務めた彼の目を通して、黒人たちの差別との戦いの歴史を描く。
監督/リー・ダニエルズ 出演/フォレスト・ウィテカー、オプラ・ウィンフリー、マライア・キャリーほか 日本での公開は2014年春の予定。
「アメリカ人はいつも己自身から目を背ける。ナチがユダヤ人を強制収容所に入れたことを糾弾する。自分たちも同じことを200年間もやっていたのを忘れて」
『ザ・バトラー』の主人公セシル・ゲインが語る200年間の強制収容所とは、アメリカの黒人奴隷制のことだ。『ザ・バトラー』は、ホワイトハウスの執事を34年間務めた黒人執事セシル・ゲインの生涯を描く。
セシルは、ユージン・アレンという実在の人物をモデルにしている。アレン氏は、トルーマン、アイゼンハウアー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン、フォード、カーター、レーガンまで、8人の大統領に仕え、最後には執事長にまで上り詰めた。
セシルは20世紀初め、南部ジョージア州に生まれる。すでに1865年、南北戦争で敗れた南部では黒人奴隷は解放されていたが、黒人の選挙権を奪うことによって政治も法律も依然として白人が支配していた。人種隔離法によって、学校、公衆トイレ、バスなどはすべて白人用と黒人用に分かれ、白人席に黒人が座ると罰せられた。小作人だったセシルの母は地主の白人に犯され、怒って地主に立ち向かった父は射殺される。