――中高生の間で、最近大ヒットしている小説群がある。大人が聞いても「なんだ、そりゃ?」と思いそうだが、ボカロ曲を原作にした作品がそれだ。一体どんな作品なのか、なぜ10代に受けるのか?
『カゲロウデイズIV』(エンターブレイン)
ニコニコ動画で再生回数数十万回以上を誇るボカロ曲(ボーカロイドを使った曲)を原作に、ボカロP(プロデューサー=作曲者)が書いた「ボカロ小説」が、10代から20代前半の女子に人気だ。原作の楽曲は元々物語調に歌詞を展開したもので、最近ではPVも凝ったものが多い。歌詞/小説の中身はといえば、姉弟や想い人と関係が引き裂かれてしまう“泣ける”悲劇・悲恋や、呪いで次々人が死んだり、恐怖政治が描かれる残酷でエグいもの、主人公が鬱屈としている青春ものがヒットしている。ただの“明るく楽しい”作品は少なく、昨今のラノベのような、ちょっとエロいハーレムラブコメに至っては皆無だ。
そんなボカロ小説だが、じん(自然の敵P)【註:これ全部で作者名】『カゲロウデイズ』はシリーズ累計180万部、悪ノP(mothy)の『悪ノ娘』はシリーズ累計80万部を突破。ほかの作品も3~5万部はコンスタントに出る。一般文芸なら初版3000~4000部、ライトノベルでも初版1万数千部スタートという出版状況で、異様に映るほど盛り上がっている。その昔「月刊カドカワ」発で尾崎豊やユーミンの小説やエッセイがヒットしたことのボカロP版、といえば年長世代にもわかりやすいだろう。