人類のナゾは音楽で見えてくる! ブラックミュージック専門サイト「bmr」編集長・丸屋九兵衛が“地・血・痴”でこの世を解きほぐす。
『Suffering from Success』/DJ KHALED
(発売元:Cash Money)
困った横顔が印象的な最新作は近日発売。過去6作すべてに参加した肥満仲間のリック・ロスは、今回も皆勤賞を継続。そのほかもリル・ウェインやエイス・フッドなど、南部ラッパーが多めの人選か。件のニッキー・ミナージュは“I Wanna Be with You”に参加。問題のプロポーズ劇でも「君と一緒にいたい」を繰り返したキャレドである。
DJキャレドという人物をご存じだろうか? いまアメリカで「DJ」を名乗る人間のうち、最も影響力を持つ男だ。
このDJキャレド、つい先日はMTVのカメラに向かって、当代きっての人気女性ラッパー、ニッキー・ミナージュに公開プロポーズを敢行して話題になった。ただし、この2人は交際しているわけではない。つまりこれは唐突かつ一方的な告白であり、後から聞いたニッキー・ミナージュは大笑いしたという。「単なる新作宣伝」との揶揄もあり、全米規模で苦笑を呼ぶ結果となった。だが、このDJキャレドとはそもそも何者なのか? 実は彼の存在や地位を考えると、日米の文化差異が浮かび上がってくるのだ。
2006年に発表した『Listennn...the Album』以来、DJキャレドは計6枚のアルバムを発表しており、この9月か10月に発売される『Suffering from Success』が第7作ということになる。
問題は、それらの自己名義作で、キャレド自身がほとんど働いていないことである。DJらしくスクラッチする場面も少ないし、ラップもなし。DJと名乗るアーティストの自己名義アルバムはたいてい、そのDJのプロデュース曲集だが、キャレドのプロデュースは1作につき最大3曲。その3曲中にアルバム全体の序章が含まれていたりするので、実質的には2曲である。それ以外の曲はすべて、ほかのプロデューサーの仕切りで、そうそうたる顔ぶれのラッパーやシンガーが参加している。
自己名義作なのに、ラップしない、プロデュースもほぼしない。「シャウトアウト」と称される曲冒頭の掛け声というか威勢のいい紹介トークは、確かに本人がやっているが……それだけでいいのか?
ここで根本的な疑問。DJキャレドの「DJ」とはなんなのか。