──これまで本誌は、ファッション誌や音楽誌では、メーカー側から雑誌側へ巨額の広告費が動き、誌面もその広告費に大きく影響されることを暴いてきた。はたしてこの構造は、美術誌においても成立しているのだろうか? 関係者の証言をもとに分析する!
『美術手帖 2013年 09月号』(美術出版社)
カルチャー誌のアート特集を読むことはあっても、アート系の専門誌をわざわざ買って読む、という読者はそう多くはあるまい。ここでは、アート系雑誌の世界を眺めてみよう。
「現代アート系の雑誌といえば、『美術手帖』(美術出版社)でしょう。というか、現代アートを専門に扱っている雑誌はここしかないですからね」(アート誌ライター)
「BT」の略称で親しまれる「美術手帖」は、1948年創刊の歴史を持つ老舗雑誌。単なる作品の紹介ではなく、その作品の背景にある作家の意図、歴史的な文脈も踏まえた硬派な批評を旨とする。
例えば13年8月号を見てみると、ヴェネチア・ビエンナーレの総合ディレクターであるマッシミリアーノ・ジオーニのインタビューを引きながら、大きく“今回のビエンナーレはユングが「元型」と呼ぶもの、「最初(原初)のイメージ」についての展覧会なのです”とある。精神医学や哲学の分野ではいまや少々バカにされがちなユングやラカンであるが、語りたがりの作家やアート関係者にとっては、こういうのがいいんでしょうか。しかしこんな声も。
「それでも、BTは柔らかくなったほうなんですよ。昔はもっとバリバリの批評誌でしたから。そこから大きくかじを切ったのが、08年に編集長に就任した岩渕貞哉氏。まだ30代と若く、写真を多用してデザインも刷新、荒木飛呂彦(12年11月号)やら初音ミク(13年6月号)やらを特集し、メディアにも積極的に登場したり英訳版を作ったりと、非常に意欲的です」(アート関係者)
それって、売れないからオタク路線にかじを切ったということ?