「伊豆」(1978年)
「表象」「上演」「代理」を指す「representation」という言葉には「喪の黒布で覆われた空の棺」という意味があるという。写真も不在の死者を「再現前」させるメディウムのひとつだろう。古屋誠一はこの写真によって亡き妻の「喪の作業」を長く続けてきた。
「ウィーン」(1983年)
1978年、古屋はオーストリアのグラーツでクリスティーネ・ゲッスラーと出会い、結婚する。初めて彼女を撮影したのは、古屋が下宿するアパートだった。このときから古屋はファインダー越しに彼女の姿を見続け、クリスティーネもまるで役者のようにさまざまな表情を見せてゆく。2人にとってカメラを介したコミュニケーションは、日常の一コマだったはずだ。その後2人の間に息子が生まれ、クリスティーネも母親としての雰囲気をまとい始める。国際結婚ではあるが、どこにでもあるような幸せな家庭のように見える。