――要注目の企画展があちこちの美術館で開催されている近年。瀬戸内国際芸術祭やあいちトリエンナーレなど、地方の芸術祭も盛り上がっている。しかしそのお膳立てをするアート業界は、リーマンショック以降の傾きであちこちにほころびが……。業界関係者たちに、今のアート界の現状と問題点、そして関係者しか知らないゴシップを徹底的に聞いた!
【座談会参加者】
A:美術館スタッフ、30代
B:美術ライター、20代
C:ギャラリースタッフ、20代
『TOKYO美術館 2013-2014』(エイ出版社)
A 「サイゾー」でアート特集ということなんだけど、今そんなにアート業界って盛り上がってるように見えるのかな? 中にいる実感としては正直、景気のいい話が多いという感じは全然しないんだけど……。
B 地方のアートイベントが増えていて、メディアで取り上げられる機会も増えているからじゃないでしょうか? 「瀬戸内国際芸術祭」(香川)や「あいちトリエンナーレ」(愛知)、新潟の「大地の芸術祭の里 越後妻有アートトリエンナーレ」あたりが今まさに会期中ですが、ちょっとしたアート好きの間では、わりと話題に上がりますよね。
C ギャラリーや美術館が集中している東京だけでなく、町おこしも兼ねた地方の事業としてアートが扱われる場が増えたのはいいことに思えますよね。アーティストからしても、美術館で展示して終わり、というだけでない流れを作れるし。まぁ、地方ではパブリックアートになりやすい、モニュメント化しやすい作品を作れる作家やパフォーミングアーツ系の作家が呼ばれやすくて、小型の繊細な作品を得意とするような作家は相性が悪いですが。
A こうした地方のアートイベントのモデルケースになってるのは、2000年から始まっている越後妻有なんだよね。越後妻有トリエンナーレは総合ディレクターが北川フラムさん(代官山「アートフロントギャラリー」ディレクター)で、総合プロデューサーはベネッセ会長の福武總一郎さん。この組み合わせはそのまま瀬戸内国際芸術祭も同じ布陣で、彼らが越後で培ってきたメソッドをそのまま応用させているわけで、そりゃ初回から来場者数が26万人(のべ)にもなるはずだ。
B 新潟のアート好きの間では、「越後妻有トリエンナーレ」のボランティアスタッフを務めるのが一種のステータスになってるみたいですね。ただ、地方の行政が主導しているところだと、担当者が開催年ごとに替わったりして、ゼロからのリスタートになる場合もある。芸術監督を外部から招聘して、キュレーターを指名して、スタッフを雇って……と毎回やっていると、なかなかノウハウが蓄積されないところはありますね。
C だからやっぱり、プロデューサーや芸術監督の力は大きいですよね。愛知は、メイン会場になっている愛知芸術文化センターというホールに以前からちゃんとキュレーターがいて、オペラやクラシックコンサートをやる一方で、実験音楽家ジョン・ケージ【註1】の追悼公演をやるようなコンテンポラリーへの理解もあったりして、比較的文化事業への意欲がある行政だと、携わった人から聞きました。今回の「あいちトリエンナーレ」は、建築評論家の五十嵐太郎さんが芸術監督なんですよね?
B そうそう。だから内容も、土地や建物を利用した展示が多い。地方のアートイベントとはいっても、愛知はやっぱり都会だから、越後や瀬戸内みたいに自然豊かな風土の中で……というわけにはいかないので。
愛知の場合は、第1回(2010年)からかなり地元が盛り上がって、早くから受け入れ態勢になっていました。シャッター商店街になっていた旧問屋街の長者町に若いアーティストが移住してきて、まるまる一棟ビルを改造したアーティストの集うビルができたりしてます。ああいう盛り上がり方ができるのは、結構成功例なんじゃないでしょうか。越後の場合は、そこにいたるまで時間がかかったと聞きます。
A 「あいちトリエンナーレ」は05年の愛知万博の成功を受けて、「何かまたデカいイベントをやって人を集めたい」と県側が考えたのがスタートとして大きいんだよね。愛知に限らず、最近こうしたアートイベントが増えたのって、ハコモノ行政からソフトへの移行という面があるんだと思う。でも、それにしても数が多すぎる。お客さんやメディアも、そろそろ食傷気味なんじゃない?