2012年、『高校日本史A』『同B』(実教出版)を採択した都立高校の数
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■教科書をめぐる物騒な動き!?
学校現場における教育行政を司る都府県の教育委員会が、自らの都合により、文部科学省の検定に合格した特定の教科書を採択しないよう公立高校に対して強要するという、前代未聞の事態が広がっている。また国政レベルでも、自民党が教科書出版社を呼びつけ、記述内容に注文をつけるなど、教科書をめぐる物騒な動きが目立ち始めた。今回は、法律軽視の、そのあきれた実態に迫る。
東京都教育委員会が所在する東京都庁第二本庁舎。(写真/Wikipedia)
すでに一部メディアで報じられている通り、6月27日に開かれた東京都教育委員会(以下、都教委)の定例会で、『高校日本史A』『同B』(共に実教出版)という2冊の教科書について、国旗掲揚・国歌斉唱に関する記述(後述参照)を理由に「使用は適切でない」とする「見解」が提示された。木村孟委員長が「私から教育長【編註:都教委の事務執行責任者】に対し、教育委員の意見を踏まえて見解をまとめ、校長に周知するよう指示した」と述べると、それまでは活発に発言していた委員たちは全員沈黙。下を向く委員もいるなど重苦しい空気のなか、文部科学省の検定に合格した教科書について、都教委が学校側に対し不採択を強要するという前代未聞の「見解」が決定され、直ちに全都立高校校長に伝達された。
都教委は、実教出版の教科書を「使用不適切」とする理由について、本文ではなく側注の次のくだりを挙げている。
「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府はこの法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし、一部の自治体で公務員への強制の動きがある」
この「一部の自治体」というのが東京都だと考えた都教委が、記述に反発した格好だが、ことの発端は1年前にさかのぼる。
「昨年、都教委は、実教出版の教科書を使う可能性のある都立高校17校の校長に個別に電話し、使わないよう圧力をかけました。圧力に抵抗した校長には4回も電話し、採択をゼロにもっていったのです」(都立高校社会科教員)
都教委
東京都教育委員会。都立学校における教育の事務を所掌する行政委員会であり、6人の委員と、事務を執行する職員で構成される。主に教育方針・施策の検討、教職員の人事、学校の組織編制・教育課程・学習指導の検討などを行っている。
実教出版の日本史教科書は全国シェア14%であり、東京都だけ「採択ゼロ」は異様といえる。教科書出版社社員は、今回の都教委の決断について、「教科書採択のプロセスについて、教員や保護者から不審の声があがる中、もうコソコソやるわけにはいかないと、今年は居直るように『見解』を出したのでしょう」と解説する。
その都教委は6月27日付毎日新聞の取材に対し、もし高校が実教出版の教科書を選んだ場合には「最終的に都教委が不採択とすることもあり得る」と答えるなど、強い姿勢をみせている。
そもそも高校の教科書は、どのように選ばれるのか? 都立高校のベテラン教員が説明する。
「『うちの高校で学ぶ生徒たちにとって、どの教科書がいいか?』を教科担当の教員たちが検討し、学校ごとに選定します。例年7月22~23日頃、選定結果を都教委に報告します。その後、選定理由に関して都教委からヒアリングが行われることもありますが、ほとんど形式的なもので、8月下旬に各高校の希望通りの教科書が(都教委によって)採択されるという流れです」