──ギャングといえばコロンビアやメキシコを連想させるが、ブラジルのギャングもかなりヤバイ! 暴力と貧困にまみれた子どもたちの現状を描いた映画『シティ・オブ・ゴッド』そのままの世界が今もなお存在しているという。(おそらく)日本で一番詳しいブラジルギャングレポート!
バラックが連なり、その間を縫うように路地が入り組むファベーラ。(写真/Milton Jung)
ラテン系の陽気な国民性で知られるブラジルだが、光があれば闇があるもの。ブラジルの大都市が抱える問題が、ファベーラに巣食うギャングの存在だ。
概論の記事でふれた通り、ファベーラとは、ブラジルの大都市には必ず存在する貧民街。中でも最大のファベーラがあるリオデジャネイロでは、住民の4分の1がファベーラに住んでいるといわれる。
「20年ほど前から、麻薬の供給国であるコロンビアに対してアメリカの締めつけが厳しくなり、コロンビアの麻薬がブラジルを経由して北米、ヨーロッパに流れています。ブラジルのギャングは麻薬を輸送するだけではなく、国内でも販売。それが広がり、ファベーラが犯罪の温床になっています」
そう語るのは、ブラジルにおける日系社会のための新聞社・サンパウロ新聞代表の鈴木雅夫氏である。
郊外の土地を不法占拠する形でできたファベーラにはコンクリートやレンガで建てられた住居が並び、その構造は車が入れないほど複雑に入り組んでいる。電気は近くの電線から引っ張った盗電で、上下水道も完備されておらず、衛生状態は極めて悪い。そこで生まれ育った子どもたちは満足な教育を受けることができず、行き場を失った少年たちは、やがてファベーラの奥部にアジトを持つギャングのメンバーに勧誘されていく。ほかの国のギャングのように都市部の繁華街でシマを奪い合うのではなく、家族が暮らす生活空間のすぐ脇でギャングが銃撃戦を繰り広げる、というように貧民層の生活とギャングが密接にかかわり合っているのが、ファベーラの特徴なのだ。
リオデジャネイロで最も有力なギャングはコマンド・ベルメーリョ(以下C・V)という組織だ。その成り立ちは79年にまで遡る。軍事独裁政権だった当時、リオから3時間の場所にあるグランデ島の刑務所は不法行為が横行し腐敗の一途をたどっていた。その刑務所内で、左派の政治犯と普通の受刑者が看守から身を守る為に結成したのがC・Vだった。
メンバーの多くはインテリ層で、チェ・ゲバラやカール・マルクスの思想に強く影響を受け、「平和、正義、自由」をスローガンに掲げて受刑者たちに人間の尊厳を保証し、身の安全を約束。メンバーには厳しい規律と正しい振る舞いを要求した。C・Vは刑務所内の旧勢力と対立しながら、急速にその勢いを拡大していった。80年にC・Vの主要メンバーがリオデジャネイロのほかの刑務所へ移送されると、その組織運営方法と“哲学”がリオの刑務所中に拡散。また、ほかの主要メンバーが脱獄し、組織的な犯罪行為を開始したのだ。