──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。
第34回テーマ「橋下市長慰安婦発言の普遍的正義」
[今月の副読本]
『討議倫理』
ユルゲン・ハーバーマス/法政大学a出版局(05年)/3465円
法、あるいは法制化以前にもたらされる“討議”の根底にある倫理とは何か? ドイツの哲学者による80年代に欧米各国で行われた講義集でもあり、著者自身、批評的な評論集と位置付ける一冊。7月には新装版が発売。
旧日本軍の従軍「慰安婦」制度をめぐる橋下徹大阪市長の発言は国内外で大きな波紋を呼びました。じつはその橋下市長の一連の発言は、正義というものを考えるうえで大きな示唆をあたえてくれています。日本外交の今後の方向性を考えるためにも、今回はその発言をとりあげましょう。
まずは簡単に経緯を確認しておきましょう。
発端となったのは、5月13日に橋下市長が記者たちをまえに「慰安婦制度が必要なのは、これは誰だってわかる」と発言したことです。またこの日の午後には「慰安婦制度じゃなくても、風俗業っていうものは必要だと思う。だから沖縄の海兵隊・普天間に行ったとき、司令官に『もっと風俗業を活用してほしい』と言った」と発言し、沖縄の米軍司令官に風俗業の活用を進言したことを明らかにしました。
しかしこれらの発言は国内外で大きな批判を招いてしまいます。16日には米国務省のサキ報道官が記者会見で橋下市長の発言を「言語道断で侮辱的」と強い調子で非難しました。ここまで強く米政府が日本の政治家の発言を非難するのは異例です。また、安倍晋三首相も15日の参院予算委員会で「安倍内閣、自民党の立場とはまったく違う」と橋下発言を突き放しました。
その後も国内外からの批判はやまず、追い込まれた橋下市長はついに27日、日本外国特派員協会で記者会見をひらき、みずからの見解を釈明せざるをえませんでした。
これら一連の発言をつうじて橋下市長はいったい何をいいたかったのでしょうか。