――「CDが売れなくなった」「音楽不況だ」といわれて久しいが、実はこの認識は少し間違っている。メジャー市場で生産・流通されるCDの売り上げは08年で底を打ち、近年は回復傾向にあるのだ。そして今、音楽業界全体を支えるのは、フェス・ライブの売上高。その他、モバイルやPCダウンロード販売からボカロや同人音楽まで、現在の音楽市場を形成するあらゆるプラットフォームを数字から分析する。
【2010年代の音楽市場動向を読み解く“5つの数字”】
<CD売り上げは14年ぶりに前年比増>
[パッケージ 生産高]…3108億円
■CDが売れる謎の国・日本複数枚購入方式が牽引?
長らく縮小を続けてきたCD売り上げが、14年ぶりに前年比増を記録した2012年。それを牽引したのは、AKB48や嵐などアイドルグループの複数枚購入だ。今年上半期は対前年比でシングル部門が微増、アルバムと映像ソフト部門が微減となっている。2013年もほぼ前年に近いセールスが見込めそうな状況だ。ただし海外ではすでにパッケージから配信に販売経路の趨勢が移っており、いまや日本は世界一の音楽パッケージソフト市場を抱えるガラパゴス的な状況にある。先行きはあくまで不透明だ。
<ガラケーと共に滅びゆく“着うた”>
[モバイル配信 売上高]…347億円
■スマホ移行失敗で存在感をなくした文化
有料音楽配信市場は4年連続で減少が続き、昨年にはピーク時の08年に比べて6割ほどの売り上げとなった。特にモバイル分野での落ち込みが大きく、13年の着うた市場は壊滅状態に。その背景に、スマホへの対応の遅れがあるのは間違いない【註:スマートフォンはモバイルとして扱われない】。最大手のレコチョクがAndroid向けの音楽DLアプリを公開したのは11年(iOS向けは12年)。出遅れているうちに、ゲームなど他分野のアプリに若年層の興味を奪われた格好だ。
<案外地道な成長ペースの配信事業>
[ネット配信 売上高]…179億円
■業界の期待を一身に背負ってきたものの……
PCやスマホでの音楽配信市場は順調な拡大を見せているが、モバイル分野の下落を補うほどの数字を記録するには至っていないのが現状。そんな中、音楽業界の期待を集めるのがサブスクリプション(月額課金)型のストリーミングサービスだ。先行するソニーやレコチョクに続き、台湾のKKBOXが6月に開始、今年秋から冬には欧米を席巻するSpotifyが上陸予定。海外で成功を収めているモデルだけに、レーベル各社の包括的な協力が得られるかどうかが鍵だ。
<数字に表れた「パッケージからリアルへ」>
[ライブ 入場者数]…3228万人
■CDではなくライブで稼ぐ顕著になった“生”志向
入場者数、市場規模共に、ここ数年右肩上がりの成長を続けているのがコンサート事業。10年前は夏の風物詩だった音楽フェスも年間を通して各地で開催されるようになり、動員数は増加傾向。会場限定グッズに力を入れるなど、アーティスト側もライブやコンサートを収益の軸と捉えるようになってきた。今後はYouTubeやUstream、ニコニコ生放送と連動した生中継コンテンツの普及と拡大を活かせるかどうかがポイントになる。
<伸び代を残す、ネット発の新進市場>
[同人音楽 市場規模]…150億円(推定)
■初音ミク人気はとどまるところを知らず
ニコニコ動画、ボーカロイドの普及もあり、オタクコミュニティを背景にした同人音楽の市場が拡大を続けている。いまや数十万人を動員する「コミックマーケット」の一角だけでなく、「THE VOC@LOiD M@STER」や「M3」など音楽専門の即売会イベントも定着。明確な数字はいまだ算出されていないが、ボーカロイドの関連商品のみで70億円という見通しもあり、市場規模は150億円前後と見られる。音楽ビジネスにおいて今後見逃せない分野になっていきそうだ。