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萱野稔人の"超"現代哲学講座 第35回

国民投票は国民の総意を反映できていない!? 憲法改正でゆらぐ憲法の価値

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──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

第34回テーマ「96条は誰のために改正されるのか?」

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[今月の副読本]
『構成的権力──近代のオルタナティブ』
アントニオ・ネグリ/松籟社(99年)/5040円
当世を代表する政治哲学者ネグリのライフワークとみなされる書。イギリス革命からフランス革命へ、そしてスピノザ、マルクス、レーニンに至るまで、近代の革命的政治思想を総括し、構成的権力の理論を組み立てていく。


 憲法改正をめぐる論議がふたたび活発化しています。安倍晋三首相が、憲法96条の改正を7月の参院選の争点にしたいと表明したからです。この96条改正については自民党だけでなく、みんなの党や日本維新の会も賛成の立場をとっています。これまで憲法改正といえば、戦力を保持しないことを定めた9条の改正がもっぱら議論の的になってきました。これに対して、いま論点となっているのは96条の改正です。9条から96条に論点が移ってきたという点で、憲法改正の論議は新しい局面に入りつつあるといえるでしょう。

 では、その96条とはどのような条文でしょうか。96条では、憲法を改正するために必要な手続きが定められています。それによると、憲法を改正するためにはまず、国会の衆議院と参議院のそれぞれで総議員の3分の2以上の賛成が必要となります。そのうえで国会の発議によって国民投票がおこなわれ、過半数の賛成があれば憲法を改正できるということになっています。つまり、憲法を改正したいと思ったら、国会で3分の2以上の賛成を得て、さらに国民投票で半数以上の賛成を得なくてはならないんですね。

 これがなかなか難しい。国民投票で過半数の賛成を得るというのも難しいですが、その手前で国会の各議院で3分の2以上の賛成を得るというのがそもそも難しい。だからこそいまの憲法はこれまで一度も改正されてこなかったわけですが、そうした厳しい憲法改正のための要件をゆるめよう、というのが現在提起されている96条改正の方向性です。いわば憲法を「改正しやすくするための改正」ですね。具体的には、国会で3分の2以上の賛成を得なければならないところを2分の1の賛成でいいということにしましょう、というのが改憲案の中身です。

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