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第1特集
スピルバーグ『リンカーン』製作費もインドマネー

歌って踊ってラブロマンス! だけじゃない! インド映画がついに世界で市場拡大中

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──今、インドが熱い。これは気候ではなく、ビジネスのお話。IT産業の発展でインド経済は大いに潤い、インド人にとって最大の娯楽である映画産業への投資が活発化している。2011年の映画製作本数1255本から2012年は1600本以上に膨れ上がっているというからスゴイ! 果たしてインド映画の熱気は日本にまで届くか?

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(絵/川崎タカオ)

 歴代の米国大統領の中で、最も米国民から尊敬され続けるエイブラハム・リンカーンの激動の晩年を描いたスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『リンカーン』。全米が感動に震えた歴史大作だが、実は同作がインドマネーで製作されていたことはご存じだろうか。スピルバーグ率いるドリームワークス社が金融危機の影響で経営難に陥った際、救いの手を差し伸べたのがインドの大企業リライアンス・ADA・グループだった。同グループはドリームワークス社に1000億円以上出資。『リンカーン』の製作費64億円も、半分はインドマネーでまかなわれているのだ。

 ダニー・ボイル監督の『スラムドッグ$ミリオネア』(08年)でも描かれたように、近年のインドの経済発展は目覚ましい。人口12億人を抱え、IT大国として躍進を遂げたことから、中国以上に将来性のあるマーケット、またビジネスパートナーとしてハリウッドの熱視線を浴びている。『ライフ・オブ・パイ』(12年)などインドロケ作品が次々と製作されていることからも、ハリウッドがインド市場を気にしていることがわかる。

 一方、インドと日本の映画界との関係はというと、ラジニカーント主演の『ムトゥ 踊るマハラジャ』が98年に日本で公開され、昨年も同じくラジニ主演のSF大作『ロボット』がスマッシュヒットを記録しているが、日本ではインド映画は一過性のブームで終わっていたのが実情だった。そんな中、「インド映画を日本に定着させたい」と意気込んでいるのが日活だ。世界興収75億円を記録した『きっと、うまくいく』をはじめ、インド映画の最新ヒット作を4本揃え「ボリウッド4」と題して現在立て続けに公開している。日活に今回の勝算について聞いてみた。

「歌って踊るインド映画のエンターテインメント性は一部の熱狂的ファンを生みましたが、日本ではキワモノジャンル的な扱いをされていたのが実情でした。上映時間がどれも3時間近くあり、ストーリーも古臭い印象が強かった。ところが『きっと、うまくいく』が世界的に大ヒットし、インド映画界の流れが大きく変わったんです。『きっと―』は理工系の大学に通う3人のバカな大学生を主人公にした青春コメディでありながら、インドの学歴社会を風刺したテーマがきちんと盛り込んである。これまでのインド映画のイメージを一新させる、洗練された内容なんです」(日活・宣伝プロデューサー大場渉太氏)

 インドの映画製作本数は年間1255本(2011年統計)。米国の644本、日本の441本を大きく上回る世界一の映画大国だ。ところが、日本では上映時間の長さや文化の違いがネックとなり、インド映画の配給が進まなかった。インドは宗教だけでなく言語も多様で、公用語のヒンディー語以外にもタミル語、テルグ語、カンナダ語、ベンガル語……と分かれ、各言語に吹き替えられたインド映画は版権が統一されない状態だったのだ。『ムトゥ 踊るマハラジャ』のヒットで、日本でもインド映画ブームとなった矢先の99年にはヤジャマン騒動が起きている。『ムトゥ』を買い付けてブームに導いた映画評論家の江戸木純氏が続けて、ラジニ主演作『ヤジャマン/踊るマハラジャ2』を日本で劇場公開したが、同じ作品を日本スカイウェイとアジア映画社が『ヤジャマン/踊るパラダイス』として同時期にビデオリリース。インドで版権が統一されていなかったために日本で裁判にまでもつれ込んだ事例であり、「インド映画をビジネスにするのは面倒」と日本の配給会社は二の足を踏むようになってしまった。

 今回、日活がインド映画の配給に積極的になった理由には、上映時間の長さや版権をめぐる問題が回避できるようになったことが挙げられる。

「『きっと―』はインド国内で歴代興収1位になっただけでなく、世界40カ国以上で公開され、リメイク権も売れたんです。それによってインドの映画業界が、それまでは国内で興業が成功すれば十分だったのが、海外も視野に入れるようになった。そしてリライアンス社が業界をリードする形で、インド映画界のビジネス的なインフラが整備され、言語によってバラバラだった版権もひとつにまとめられるようになりました。ミュージカルシーンも1作品に2曲程度にとどめ、上映時間が2時間15分程度のものが増えているのも最近のインド映画の傾向です」(大場氏)

 インド映画が大きく変わった社会背景を、インド映画研究家である松岡環さんに尋ねた。

「インドでは90年代に高度経済成長が起こり、中間層が大幅に増えました。97~98年頃からシネコンが次々と建てられ、都市部での映画の鑑賞スタイルが大きく変わったんです。それまでの映画館は客席1000席以上ある大劇場が主流で、上映時間が午後0時、3時、6時、9時と決まっていました。それが、シネコンができたことで上映プログラムの組まれ方が変わった結果、3時間という枠に縛られない作品が作られるようになり、新人監督にもチャンスが回ってきたんです。『きっと―』のラージクマール・ヒラニ監督はこれでまだ3本目ですが、インド社会の問題点を描きつつ娯楽作品に仕立てるのが非常にうまい。『きっと―』の中で大学生の自殺問題が扱われていますが、これは実際にインドで起きている社会問題。ヒラニ監督をはじめとする若く意欲的な監督が台頭してきたこともあり、いろんな業種からの投資が増え、現在のインド映画は大変な活況。05年からは年間製作本数がずっと1000本を超え、昨年は1600本にまで増えたという統計もあります」

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