――年商4864億円(2013年度3月期決算)を誇る、食品業界の売り上げ高で第9位のキユーピー社。ロゴマークの愛らしいキューピー人形をはじめ、日経BP社の「女性消費者が今、最も信頼を寄せている食のブランド」ランキング(05年)で1位を獲得するなど、同社へのイメージは明るい。しかし、その裏に隠された“悪魔”の素顔とは?
(絵/小笠原 徹)
日本におけるマヨネーズといえば、「キューピーマヨネーズ」をイメージする読者がほとんどだろう。それもそのはず、味の素の「ピュアセレクトマヨネーズ」や創健社の「べに花オレインマヨネーズ」、ヨード卵・光の「スーパーリッチマヨネーズ」など、そのほかの商品を圧倒的なシェアで抑え、「キューピーマヨネーズ」はその国内消費量の半分を握っているのだ。
そして、読者諸氏は、その製造販売をしているキユーピー株式会社について、どんなイメージをお持ちだろうか。
ブランドロゴのかわいらしいキューピー人形や、福山雅治が出演する「キューピーハーフ」のテレビCMなどから、なにやらオシャレな企業を連想する向きも多いだろう。しかし意外にも、食品業界内では「ブラック企業」という噂が絶えない。10年来の取引先企業の社長は言う。
「キユーピーの営業マンは、かなりハードみたいですよ。うちに来ていた子たちも、ちょくちょく辞めていきますし。それで、前に辞めた社員と飲みに行ったら、残業時間も実際に働いた時間より少なく報告するように上司から言われていたそうで、『イメージはいいですけど、中身はかなりブラックですよ』なんて笑ってました」
このような証言を裏付ける裁判が、2010年、実際に行われている。東京のキユーピー中河原工場で課長を務めていた男性社員(当時51歳)が、長時間労働や工場長のパワハラでうつ病になったとして、会社を相手取って慰謝料など約3100万円の損害賠償を求めたのだ(次特集コラム参照)。
月平均残業177時間。管理職のため、残業代なし。日々浴びせられる罵声。この課長はこれらを理由として休業補償を申請し、労働基準監督署から労災認定されている。
ところがこの問題、世間的にはほとんど知られていない。裁判を取材したジャーナリストの佐々木奎一氏が言う。
「これまでいろいろな企業のパワハラ事件を取材してきましたが、キユーピーのケースは群を抜いてひどかった。にもかかわらず、時事通信が提訴時に小さく報じただけで、ほかのマスコミは一切扱いませんでした。司法記者クラブなら、みんな知っていたはずなのに」
なぜ揃いも揃ってマスコミはスルーしたのか。その理由を、大手広告代理店幹部社員が明かす。
「年間にして約80億円という広告出稿量だけを見ればトヨタやパナソニックなどにはかないませんが、キユーピーほどメディアをうまく掌握している企業はないんです」
もちろん、こういったパワハラ裁判は枚挙にいとまがないため、キユーピーのそれをスルーしたことは、広告だけではないだろう。だが、「キユーピーは国内企業の中でも、最も古くから新聞やテレビと付き合ってきた。つまり、長い時間をかけて培ってきた強い信頼関係があるんです」(同)という話も聞こえてくる。
ここからは、その巧みな宣伝戦と、同社の裁判の歴史をひも解いていきたい。