文芸関係者による文壇ゴシップ座談会
4月9日、2013年本屋大賞の受賞作が発表となった。一次投票が12年11月1日から13年1月6日までに行われ、全国463書店598人が投票。その後の二次投票では、10位が総得点タイとなったため、上位11作品がノミネート作品として発表。3月上旬に、受賞作の版元である講談社に事務局長などが赴き、受賞が伝えられたという。
2013年本屋大賞受賞の百田尚樹著『海賊とよばれた男』
【座談会参加者】
A:雑誌編集者
B:中堅書店の書店員
C:文芸系ライター
A 早速だけど、今年の本屋大賞【1】は百田尚樹の『海賊とよばれた男』(講談社)に決まったね。
B 書店員の間では、毎年恒例「自分が推した本が大賞じゃなかった」話が、繰り広げられてますよ(苦笑)。まぁ今回は、無難な並びだったんじゃないでしょうか。
C 近年の受賞作は、出版社の書店営業による集票合戦のような状態になっていたからね。
B そうした背景もあって、第9回(12年)から2次選考の投票方法が変わって、投票するにはノミネート作すべてを読むことになった。そのかいもあってか、渋いけど妥当な作品が揃うようになってきました。ただ今回は、上下巻ものや500ページ以上ある大作が多くて、2次投票締め切り前は、なかなか辛かった(苦笑)。
C 大賞の百田さんは、構成作家らしく、資料を読み込んでお話を紡ぎ上げるのがうまいから、歴史ものはピッタリ。2位の『64』(文藝春秋)も、横山秀夫の7年半ぶりの新作。こちらは、緻密な取材に基づいた警察小説で、圧巻だった。
B 横山さんは、休養説が流れるほどブランクが長くて、作家活動そのものが心配されていましたからね。
A 一方で、あんまりサプライズのない賞になったように見える。若手の実力派として人気を集めていたものの、09年に亡くなった伊藤計劃と、同じく若手で人気のある円城塔の合作となった『屍者の帝国』(河出書房新社)がノミネートされたのはいいとして、大御所の宮部みゆき先生や窪美澄(『晴天の迷いクジラ』)・原田マハ(『楽園のカンヴァス』)という、新潮社刊・山本周五郎賞受賞作家コンビなど、受賞しなくても売れるでしょ、という作品ばかりという印象だよ。
B 宮部さんはすごく温厚な人柄で、各方面に気遣いもできる。書店員の間でも評判がいいですからね。
A そんなラインアップの中で悪目立ちしていたのが、映画プロデューサー・川村元気の『世界から猫が消えたなら』だった。いかにもマガジンハウスらしい、軽い読み口の作品。本屋大賞が政治闘争の激しかった“暗黒期”ならいざ知らず、今はまず受賞できないでしょう。
C ところが、下馬評では受賞候補として有力視されていたんだよ。なにせ映画では、『告白』『悪人』などを手がけて大ヒットさせているし、とにかく話題作りがうまい。実際に同書も、20万部を突破し、アマゾンの文芸ランキングでも連日1位だった。秋元康ほか話題の著名人が感想を寄せまくっていたし、話題作りに関してはお上手、といったところか。
A ただ、著者が書店にあいさつ行脚に来て、顰蹙を買っていたね。マガジンハウスは書籍の営業も他社に比べてかなり少ないし、あまりに露骨でしょ。
B しかも行った先で「次、●●書店に行くんですけど、どうやって行くかわかります?」とか聞いてくる始末だったと、対応した書店員は苦笑いしてたそうですよ。