──各出版社や書店などが知恵を絞って生き残りをかけている出版業界。売る現場で主役になるのは、出版社の営業担当者だ。今回は、彼らに集まってもらい、ビジネスとしての出版業界の裏話や、営業目線で最近話題の本など、販売の裏側を赤裸々に暴露してもらった。
(絵/都築 潤)
【出版業界最強伝説1】
露骨な商業主義に堕した文学賞
■本屋大賞の権力化問題
かつては受賞すれば30万部は本が売れていたという芥川賞や直木賞が衰退する一方で、現在、もっとも本が売れる文学賞となっているのが全国の書店員によって選ばれた本が受賞する「本屋大賞」。だが、それに目をつけた一部の出版社が露骨な営業をかけており、文学賞界の新権力となっている。もちろんこれに嫌気が差す書店や出版社も続出しており、その存在が疑問視されるまでに至っている。
(絵/都築 潤)
【出版業界最強伝説2】
最強2社の権力が増大中
■取次No.1の日販が独走
トーハン、日販の2大取次と言われた時代に陰りが見え始めた 昨今、日販はTSUTAYAや未来屋書店などの大手チェーン店とともに業界内シェアを拡大し、日販の権力が強大化。売上高で1000億円近く溝をあけられているトーハンは、負けじと書店の買収に奔走。しかし、取引する書店力の差で日販とトーハンの差は開くばかり。パートナーズ契約など様々な営業戦略が成功 している日販とそれを後追いするトーハンの熾烈なシェア争いがこれからも続く。
(絵/都築 潤)
【出版業界最強伝説3】
ゴリ押しアマゾンは税金払ってない!?
■アマゾンの権力化問題
アマゾンの書籍売り上げは、およそ1800億円といわれ、実店舗を持つTSUTAYAや紀伊國屋書店などを抜いてダントツ。コレを背景に、外資系企業の理論で次々に業界変革を遂行し、批判の声が上がっている。また、日本でもこれだけ稼いでいるにもかかわらず、アメリカに本社を置く企業の日本支社という位置づけであるとして、日本に税金を納めておらず、12年6月に国税の調査が入っている。
【座談会参加者】
A:中堅出版社 入社20年
B:大手出版社 入社15年
C:老舗・小出版社 入社17年
D:老舗・中堅出版社 入社18年
A 出版業界は2012年の全体売上が前年比3.6%減の1兆7398億円(出版科学研究所調べ)で、相変わらずシュリンクし続けている状況だね。昨年はミリオンセラーも『聞く力―心をひらく35のヒント』【1】だけだったし、今年に入っても店頭は「パッとしない」と、ある書店の社長がぼやいていたよ。
B でも今年は、2月に幻冬舎から『置かれた場所で咲きなさい』【2】と『プラチナデータ』【3】が2冊同時に、サンマーク出版からも京セラを創業した稲盛和夫氏の『生き方―人間として一番大切なこと』【4】が刊行10年目でミリオンを達成した。幻冬舎のほうも昨年から売れていたけど、今年に入って明るい話題が出てきている。
C あと、別な意味で2月は書店員さんが忙しかったよ。書店員が選ぶ文学賞「本屋大賞」の2次投票の締め切りが月末だったからね。ノミネート作品すべてを読んで、作品ごとにコメントを書いて投票するのが決まりだから、今回は『海賊とよばれた男』【5】や『光圀伝』【6】、『百年法』【7】など分厚い上下巻モノが多く、参加する書店員さんは読むだけでも苦労したようだ。サイゾーでもよくネタにしているけど、いまや同賞は、芥川賞や直木賞よりも「売れる文芸賞」と出版業界では認識されている。大賞を受賞すれば最低でも数十万部も売れる一方、それ以外の作品は良くて数回重版かかる程度だから、ノミネートされた作品の版元8社は、“営業”に必死だったと思うよ。
D そうそう、大賞作品はあらかじめ書店や版元に告げられていて、出版社は発表前に書店から注文を募って増刷するわけだから、出版社としては大規模に稼げる絶好の機会。昨年、大手出版社の営業担当者や著者が票集めのために書店行脚したのは記憶に新しい。今年も、映像にも強いある著者が書店行脚したり、営業が書店員宛てに、「著者謹呈」を挟み込んだ作品を送ったりしていたらしいよ。
C 営業サイドからすると、それくらいはやってもいいよね。行ったこともない書店や会ったこともない書店員に対して、アポなしで訪れて恩着せがましく本にサインしたりするのは露骨で卑しいけど、担当エリアの営業先で「うちの本はどんな感じでしたか?」「読んでいなければどうぞ」くらい言えない営業は、仕事をしているとは言えないよ。
A ただ、このところの本屋大賞って「書店員が決める賞」という一線を越えてしまっているように見えるね。今の本屋大賞は、大手出版社の営業力なんかが見え隠れして、出版社の宣伝に成り下がってしまったのかなぁという印象だよね。
B 本屋大賞には、「もっと書店員に本を読んでほしい、そのきっかけづくりに」という面もあったから、2012年から2次投票の方法も変わったし、書店員が自分の好きな本以外の作品を読む機会を提供してきたのは大きな功績。ただ、自分でそう言っていながら、書店員が売るための商品を読んでリサーチしておくのは当たり前だし、本末転倒な気もするが、それが現実なんだよなぁ。
A 本屋大賞で書店員が注目されるようになったけど、書店発ベストセラーの元祖として話題になったのは、98年ごろに千葉県津田沼にあるBOOKS昭和堂による『白い犬とワルツを』【8】だよね。最初はこの書店で店員の手書きPOPをつけて展開したらかなり売れた。それを聞きつけた新潮社の女性営業担当者が、その実績を他店にも伝えて実施してもらい、全国的に売れたんですよね。
B 昭和堂の流れ以来、出版社の営業が書店の拡販に便乗して売るのがベストセラーのひとつのスタイルになったね。新潮社や中央公論新社などは、社として積極的に発掘本のプロジェクトに取り組んでいる。新潮社は『白い犬~』以降も、『水曜の朝、午前三時』(新潮社/蓮見圭一)などが売れたし、中央公論新社も『刑事・鳴沢了』シリーズ(中央公論新社/堂場瞬一)などがドラマ化されるほど好評だった。
C 『思考の整理学』(筑摩書房/外山滋比古)とか、『安政五年の大脱走』(幻冬舎/五十嵐貴久)とかも、書店が最初に仕掛けて、版元営業がそれに乗じて全国に拡散させてベストセラーになったよ。
D 今は著名人のオビや推薦文だけじゃ、本は売れないからね。徳間書店の『殺人鬼フジコの衝動』【9】とか『九月が永遠に続けば』(新潮社/沼田まほかる)みたいな「イヤミス」(「後味が悪い」「イヤな気分になる」ミステリー作品の事)ブームを仕掛けるとかしないと。営業も昔みたいにただ書店に行ってるだけじゃだめで、売れる仕掛けを書店と一緒に企画しなくちゃいけない。
B でもそうやって書店と一緒に売り出せるのはいい例だよね。