トクホ商品は、ひとつヒットが出ると他メーカーが追随する傾向にある。例えばお茶類でも、「ヘルシア」や「黒烏龍茶」に続いて、類似商品が続々登場している。
この健康志向時代において、新商品が発売されるたびにブームとなる特定保健用食品(トクホ)。12年に2社が発売したトクホコーラも1億本以上売り上げており、まさに現在、ブームの渦中にあるといえよう。だが一方で、トクホは数々の回収騒ぎや効果に対する疑問も指摘されており、イマイチ信頼性が薄い商品であるようだ。こうした怪しいトクホの実態とブームに群がり利権を貪る面々について追った──。
このところ「トクホ」が再びブームになっている。
これまで、1999年花王・食用油「エコナクッキングオイル」、03年花王「ヘルシア緑茶」、06年サントリー「黒烏龍茶」など、続々とトクホ商品がヒットを飛ばしてきたが、今回はコーラだ。
12年4月に発売された、キリンビバレッジの「メッツコーラ」は、発売から6カ月で550万ケース・1億3000万本の販売を記録。一部で生産が追いつかず、店頭で大幅な品不足となる事態にまで陥った。これはトクホ商品としては異例の480ml・150円の低価格ということもあって(ヘルシアの場合、350mlで1本180円~350円)、人気に火がつき「ヒット商品番付」(日経MJ)にも登場したほどだ。
このヒットに乗ってサントリーもトクホ商品「ペプシスペシャル」を11月に発売するや、わずか2週間でキリン「メッツコーラ」を上回るペースで130万ケースを販売した。3年後には年間1000万ケースまで売上規模を伸ばし、主力商品にする計画だという。こちらは490ml・158円だ。
これまでコーラは「若者の飲み物」というイメージがあったが、このトクホコーラは、30~40代の男性をターゲットにしているところが特徴だ。「メッツコーラ」はCMキャラクターに「あしたのジョー」を、「ペプシスペシャル」は俳優の織田裕二を起用し、「脂肪の吸収を抑える」効果をアピール。仕事で日中外に出て脂っこい食事が多く、健康にも気遣う30~40代男性の心をガッチリとつかんだ格好だ。
では、そもそもトクホとは、どんなものなのか? トクホ制度ができたきっかけは、84年に文部省(当時)が行った「食品機能の系統的解析と展開」という研究だ。この研究の中で、「食品には体調を調節する機能がある」という点に注目が集まり、産官学が一体になった「機能性食品」構想が持ち上がった。
その後、厚生労働省が主導し、制度化に当たっては、「機能性」から「特定保健用」に名称変更がなされ、91年に特定保健用食品、通称トクホ制度がスタート。(90P年表参照)
この制度では、当該商品が、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、整腸機能に役立つなど、特定の保健効果があることを証明するために、国による審査を受ける必要がある。
その審査には、ヒトを対象とした実験の結果を含めた「食品及び関与成分に係る保険の用途を医学的・栄養学的に明らかにした資料」の提出が義務付けられている。『消費者委員会』、『食品安全委員会』、『厚労省医薬食品局の審査、独立行政法人国立健康・栄養研究所』もしくは『登録試験機関』の分析を経て、許可に至るのだが、「この資料は医学・栄養学等の学術書、学術雑誌等に掲載された知見を含む」としていることから、実験結果は学術論文の形をとることが多い。
こうして認可を受けた製品は、”トクホマーク”を用いて、その効果を表示することができる。また、国が定めた栄養成分を1つでも含んでいれば、国の許可を得ることなく表示できる「栄養機能食品」と共に、トクホは「保健機能食品」というカテゴリに入る。
トクホは97年には許可品目が100品目に到達し、05年には500品目、12年5月に1000品目に到達するなど、飛躍的に増大してきた。市場規模も急拡大し、97年には1000億円程度だった市場が、07年には7000億円近くまで売り上げを伸ばした。厚労省をはじめとした産官学が作り上げたこのビジネスを、08年に同省が自らスタートしたメタボリックシンドローム検診の義務化などを追い風にして、消費者の健康志向の高まりが、トクホ市場の拡大を支えてきた。
しかし、2000年代後半は、逆風に見舞われることもしばしば。トクホ市場がピークだったのは07年で、年を追うごとに売り上げは低迷し、11年には5175億円まで下がってしまった。
09年9月には花王「健康エコナ」が、体内で発がん性物質に変わる可能性のある物質を、ほかの油よりも多く含んでいることが判明し発売中止になった「エコナショック」の直撃を受けた。
また、同年同月には消費者庁が設立され、トクホの制度が消費者庁の管轄に移行。消費者庁は10年に「健康食品の表示に関する検討会」による報告書をまとめ、トクホについて表示許可手続きの透明化など抜本的な見直しを提言した。厚労省時代に比べるとじっくりと審査されているためか、消費者庁によるトクホの許可手続きはスピードが落ちたという。