ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
[今月のゲスト]
橋本淳司(はしもと・じゅんじ)[ジャーナリスト]
橋本淳司氏の著書『水をめぐる争い』
近年、水資源の問題に注目が集まっている。貴重な資源である水(特に飲用可能な淡水)をめぐって、国際的な紛争や水資源の争奪が、すでに世界各地で起こっているのだ。今回は、ジャーナリストの橋本淳司氏の話から、水問題についての世界情勢や日本の現状など、さまざまな側面を見ていく。
神保 今年のマル激では、水資源の問題を継続的に取り上げていきたいと考えています。今回は第一回ということで、入門編として、世界中の水の問題を取材されているジャーナリストの橋本淳司さんをゲストにお迎えしました。
日本には「水に流す」「水掛け論」「水入りの勝負」など、水の入った言葉がいくつもありますが、その割にはわれわれ日本人の水問題に対する意識は必ずしも高くないようです。
宮台 江戸は運河の街だったし、さらに言えば水道の街でした。徳川幕府は刀狩りをするかわりに、各藩に水利や灌漑や港湾の公共事業を徹底させました。当時においては水が非常に重要なものとして扱われ、我々が水に悩むことがないように工夫されてきたし、維新以降もうまく継承されてきたのですが、その分今日の我々は水の不足に悩むのがリアルではなくなりました。そうした歴史的な経緯もあって、昨今の日本人は水が存在することの「当たり前でなさ」に自覚的ではないのだと思います。
橋本 「水に流す」という言葉の例が出ましたが、これは日本の水の状況をよく表している言葉です。例えば、目の前の川にモノを落とすと、あっという間に流れていくし、豪雨の土砂などで川の水が汚れても翌日にはきれいに流れてしまう。日本列島の断面は脊梁山脈(分水嶺となる山脈)を中心として三角形になっており、山の頂点から海までの距離が非常に短い。そのため、たくさん雨が降っても、急斜面をものすごいスピードで流れていくのです。
その点、ヨーロッパの川を見てみると、ドナウ川やライン川の流れはゆるやかで、冬には凍るほど。「水に流す」という言葉は、「水に流せる」ほど川に水量と勢いがある、独特の地形や風土を表した言葉だといえます。
神保 なるほど。水を含んだ表現や格言にも、日本独特の水事情が関係しているのですね。
橋本 例えば学校で講演すると、国語に社会、理科や算数まで、水を通して、あらゆる教科につながる話ができます。
それほど多岐にわたってテーマにできる問題にもかかわらず、水を総合的・横断的に学ぶ学問はない。同様に、国という単位で考えても、水は専門的なカテゴリーが多数に分かれており、日本には水を全体的に統括する省庁がありません。河川は国土交通省が管理し、水道は厚生労働省が管理している。このように専門化することにはメリットもありますが、それぞれのセクションにブリッジがかかっていない。そのため、予期せぬ問題に対応できなかったり、水にかかわる利権争いでにらみ合いになる、というデメリットがあります。