──ジャーナリストが『チョムスキーとメディア』に見るマスコミの欺瞞性、元警察官が『踊る大捜査線』に見る本部と所轄署との関係性、さらには精神科医が『クワイエットルームにようこそ』に見る精神科閉鎖病棟のリアルさまで、各界の"プロ"が語る、その業界のウラ側とは?
武田徹(たけだ・とおる)
[ジャーナリスト]1958年生まれ。恵泉女学園大学人文学部日本語日本文化学科教授。著書に『私たちはこうして「原発大国」を選んだ』(中公新書ラクレ)、『原発報道とメディア』(講談社現代新書)など。
今回、メディアのタブーに挑んだ映画を紹介するということで、メディアとは、ジャーナリズムとは何かという問いを、見る者に突きつけるドキュメンタリーを3本選びました。
『チョムスキーとメディア』【1】は、哲学者であり言語学者でもあるノーム・チョムスキーが延々としゃべり続けているのに圧倒されるのですが(苦笑)、テーマはマスメディアによって合意がいかに捏造されていくかということ。彼は作品内で、たとえばカンボジアの虐殺に比べて、ティモールの虐殺はなぜ西側諸国で報道されなかったのかといった問題を突き詰めながら、寡占状態となっているメディアが、国家の利益と一致する形で情報を出すことで、世間の合意が作られていくということを論証しようと試みます。ただし、先進国でそれは国家の検閲によるものではなく、マスメディアが持つシステムによって自然に行われていると訴える。マスメディアの中で現状に批判的な意見は少数派のものとして影響力を持てない。しかしそれでも言論の自由は大切で、彼はユダヤ人でありながら、ホロコースト否定論者に発言の機会を与えないメディアを批判します。言論の内容は肯定できなくても、言論の自由は保証されなくてはならないとする姿勢は極めて筋が通っています。メディアをとことん疑いながらも、人間は話せばいつかわかり合えるのだという理想を追い続けて話し続けるチョムスキーに、希望を感じさせられますね。