もはやどんな事物もテクノロジーと無関係には存在できないこのご時世。政治経済、芸能、報道、メディア、アイドル、文壇、論壇などなど、各種業界だってむろん無縁ではいられない──ということで、毎月多彩すぎる賢者たちが、あの業界とテクノロジーの交錯地点をルック!
[今月の業界と担当者]
中国ネット界/安田峰俊(ノンフィクション作家)
──政治の面でもビジネスの面でも、近年日本が熱い視線を注ぐ国・中国。今年秋には第18回中国共産党大会が行われ、今後の5年を統治してゆく習近平総書記体制が固まった。悪名高いグレートファイヤーウォールに阻まれて自由にネットが使えない、といわれるかの国では、これを機にネットと政治の関係が変わっていこうとしている真っ最中だ──。
3億5000万人近いユーザーを抱える中国独自のマイクロブログ・微博。11年には日本語版も開設されている。
「紳士淑女の皆様、そして友人たちよ、こんにちは! 長らくお待たせ致しました」
今年11月15日、中国共産党総書記に就任した習近平の演説の冒頭部分の言葉だ。
習が微笑を浮かべながら、英語の「Ladies and gentlemen」に相当する気さくな表現(=女士們、先生們)で話を始めたこと、演説の開始時刻が予定時間よりも1時間遅れたのを謝ってみせたこと、共産党の難解な専門用語を極力使わずに平易な言葉で話したことなどは、中国の国内外で驚きを持って受け止められた。
詰めかけた記者たちに、習が「記者朋友(メディアの友人たち)」という柔らかい表現を多用したこともあり、彼の演説は国営放送のCCTV(中国中央電視台)はもちろん、BBCやNYタイムズ、朝鮮日報など多くの西側メディアでも肯定的に報じられた。
前任者の胡錦濤は、中国国内のネット民から“殭屍(キョンシー)”というあだ名を付けられていたように、無表情で堅苦しい演説をすることで知られた人物だ。胡は、ネット規制をはじめとした言論弾圧や、政治・経済改革の停滞などから国内外での人望がなく、習との関係も良好でないとされる。
習近平がフラットなイメージを前面に打ち出す作戦を採ったのは、自身と前任者の違いをアピールする目的ゆえのことなのだろう。
「習総書記の演説は上品で、官僚臭くなくて素直に話している」
習近平の就任演説に対する、広東省のネット民の投稿だ。