進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!
現在話題を集めているデスクトップ型3Dプリンタ「FORM 1」(上)。3Dプリンタでのモノの製作は、画像下のように出来上がっていく。
クリス・アンダーソンが、『FREE』『SHARE』に続く新著『MAKERS』で、3Dプリンタを取り上げた。これにより、近年じわじわと高まっていた3Dプロダクト熱が一気に盛り上がる格好となっているが、真の意味で誰もが「MAKERS」になる未来は、まだ少し先なのではないだろうか──。
「3Dプリンタ」という電子機器が、たいへんな話題になっている。引き金は、「ワイアード」の編集長を最近まで務めていたクリス・アンダーソンの新著『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』(NHK出版)だ。アンダーソンは「ロングテール」という言葉を作り出した人としても有名で、アメリカのウェブのオピニオンリーダー的存在だ。
この本は、今後の産業構造を考えていく上で必読の本だ。これまで垂直統合されていたものづくりの世界までもがIT産業と同じような水平分離の波に呑み込まれ、オープン化し、個人の手に担われていくであろう未来が語られている。その変化の象徴として取り上げられているのが、3Dプリンタという機器なのである。
通常、プラスチックなどの素材を造形するためには、金型を使って射出成形する方法が採られている。金型を作るのには数十万から数百万円かかり、個人が手を出せるようなものではなかった。これに対して3Dプリンタは金型を使わず、ごく薄い板状のプラスチックを積層して造形する仕組みになっている。しかも最近は10万円を切る製品が登場し、個人でも手の届く範囲に降りてきた。
この3Dプリンタにより、「個人で営む製造業」という、新たな家内制手工業のような世界が来るというのが、『MAKERS』の趣旨だ。
しかし3Dプリンタが万能であるわけではない。同書で大きく取り上げられたために、まるで3Dプリンタさえ安価に普及すればすぐにでも「個人の製造業」が実現するかのように誤解する人が増えている気がするが、それはちょっと言い過ぎだ。