――男性読者諸氏にはあまりなじみがないかもしれないが、女性向けマンガも少女マンガやレディースコミックに限らず、昨今はBL、TL、サブカル系と細分化が進み、ある種、男性向け以上に幅広い展開を見せている。同時に、すっかり女性作家・女性編集者の多い“女の花園”と化している同業界。その中で、男性編集者たちは、どう戦っているのか? ここでは、その苦悩を聞いた。
【座談会参加者】
A…少女マンガ担当編集者 入社5年目
B…元TL担当編集者 入社5年目
C…レディースコミック「ウーマン劇場」編集長 入社8年目
“感動系”レディースコミック誌「ウーマン劇場」(竹書房)の最新号。オススメの『スーパーフライ!』も連載中。
――少女マンガからヤングレディース、レディースコミックと、女性マンガ誌も幅広いですが、最近ではさらに細分化して、ボーイズラブ(BL)、ティーンズラブ(TL)といったジャンルもあります。男性編集者として、担当するのがキツいなと思うジャンルはありますか?
A 僕は少女マンガしか経験がないので、ほかとの比較ができないのですが……どうですか?
B キツくはないですけど、戸惑いを感じることはありましたよ。僕はTLのマンガ誌を編集していたんですが、エッチ本番の描写の淡白さに拍子抜けしちゃって。「ちょい、そこまで頑張って口説いたなら、もうちょっとベッドでも頑張りなさいよ!」というか(笑)。でも、女性の場合は、口説いて恋愛して、エッチに至るまでの“過程”が重要なんですよね。
C 僕は、BLの壁がありましたね。会社にBL媒体があるので読む機会もあるんですが、男性同士のエッチ描写はやはりダメで(笑)。だけど、当時担当していた女性作家から「(BLは)背徳感と悲しさがいいんじゃないの!」って言われて、なるほどと腑に落ちた。オープンにできない恋でこそ燃えるのは分かりますよね。そう思って読むと、BLマンガは物語がしっかりしているものがけっこう多い。今では読むのも抵抗がなくなりました。
B TLの作家さんとの打ち合わせでも、よくBLネタになるんですよ。「ジャイアンとスネ夫、どちらが受けで、どちらが攻め?」なんて(笑)。
一同 爆笑
B もちろん、僕が懸命に考えた答えって、たいていは間違うわけです。BLの達人ともなると、鉛筆と消しゴムの攻め、受けは? なんて考えるらしいですけど。
A ありますね~。作家さんとレストランにいて、「フォークとナイフの関係を考えるとドキドキするっ」なんて言われた時は、さすがに言葉に窮しましたよ。
――女性向けマンガの作家さんは、まだまだほとんどが女性ですよね。となると、密に接する職業な分、距離感の取り方も難しいのでは?
A 確かに。作家さんを含め、仕事相手はほとんど女性ですからね。以前手相を見てもらったら、「女難の相が出ています」って言われたんですよ(笑)。自分の恋人よりも会っている時間が多いくらいなので、距離感はどうしても近くなります。締め切りでテンパっている時とか、僕が男だってことが意識に昇らなくなるのか、下着を干している部屋に普通に通されることもありますよ(苦笑)。
――そこまで近くなると、打ち合わせに熱が入るあまり、擬似恋愛状態になったりしませんか? さくらももこのように担当の男性編集者と結婚した作家もいるわけですし。
C う~ん……周囲では聞いたことがないですね。ウチの媒体では30代以上、主婦の作家さんも多いから、こちらから細かく年齢を聞くこともないし、離婚歴や彼氏の有無など、デリケートなところには極力触れないようにします。だから、仕事の関係から一歩踏み込むようなことはないというか。むしろ、そこは気を使いますよ。
B 電話ひとつとっても、主婦の作家さん相手だと、夜遅くや家事で忙しそうな夕方は避けようかとか、いろいろ考えますよ。仕事場への差し入れもポイント。僕は甘いものに詳しくないので、いろいろ教えてもらうんです。ほら、神楽坂の……
C 「紀の善」ね。中山美穂が女性編集者役で出たドラマ(『Love Story』/TBS/01年)の話なんですけど、作家に紀の善の抹茶ババロアを差し入れするっていうシーンがあって。それを覚えてる作家さんがけっこういるので、抹茶ババロアを持っていくと喜ばれますよ。
A 僕もよく買いますね(笑)。それ以外にも、女性の作家さんを担当する編集者はみんな、鉄板スイーツをおさえてますよね。だけどたまに、アシスタントさんの分まで買っていったら、帰っちゃってて「こんなにどうしよう」ってなったり、フルーツ系は間違いない、と思ったら「食べられないんです」なんて言われたことも……(泣)。
一同 あるあるー。
C あと、作家さんと食事するときは、トイレがキレイで男女別になっている店かどうか、いろいろチェックします。和食、おばんざい系なんかは、おおむね喜んでもらえますね。