進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!
2012.9.19 iOS 6の地図のひどさは、世界各国のユーザーの間でネタになっている。珍妙なスクリーンショットを集めるTumblrの専用アカウントも(画像下)。
iPhoneの新OSへのアップデートが、9月中旬から順次始まった。新OSでは、デフォルトの地図アプリがグーグルマップからアップルオリジナルのものに変更されている。これがユーザーからネタにされるほどひどい出来のシロモノなのだが、アップルには、不具合を押し切ってリリースせざるを得ない理由があった──?
先ごろリリースされたiP honeの新OS「iOS6」の地図がひどいと話題になっている。「パチンコガンダム駅」なんていう謎の場所が記載されていたり、地名がハングル表記になっていたり、バグだらけなのだ。iOS5まで使われていたグーグルマップと比べれば、質の低下はあまりにも無残だ。
完璧主義で名高いアップルが、なぜこんな地図アプリをリリースしてしまったのだろうか? ネットでは「故スティーブ・ジョブズだったら決して許さなかっただろうに」というような声も出ている。確かにそうかもしれないが、後継者であるCEOティム・クックがそこまで無能であるはずもない。そこにはもう少し重大な要素が隠れているはずだ。
地図はスマートフォンにとって、どのような意味を持っているのだろうか。単なるアプリなら入れ替えれば済む。だが問題は、スマホ内蔵の地図は、ソーシャルメディアをはじめとしたさまざまなアプリと連動して動いているということだ。「食べログ」アプリから店の場所を見ようとすれば、iPhoneの内蔵地図が立ち上がる。フェイスブックやフォースクエアからチェックインしようとすると、やはり内蔵地図が起動する。地図は単なるアプリではなく、スマホというモバイルデバイスの本質に迫る、極めて重要な機能なのだ。
スマホの「核」となる要素は、地図と人間関係、決済、広告だ(ただし広告は、まだ進化の途上だ)。これらに比べれば、音声通話なんて付属機能の一つにすぎない。通話が重要なのではなく、誰と通話するかという、「誰」の人間関係情報のほうが重要なのである。アップルはこれまでこの4要素のうち、アップルIDによる決済しか握っていなかった。地図はグーグルに依拠し、人間関係はPingというiTunes連動ソーシャルメディアを作ろうとしたが失敗し、フェイスブックやツイッターとの連携に踏み出している。
モバイルデバイスは今後、社会の基盤へと進化・普及していく。この「4分の1」の状況を放置すれば、徐々にグーグルやフェイスブックに主導権を奪われる危険性がある。モバイル基盤自体がまだ成長過程の今のうちに、少しでも4要素を自社に取り込む──アップルがそう判断した可能性は高いと私は考えている。