──テレビや新聞など大手メディアが扱えない「タブー破りの本」の中でも、特に訴訟リスクなどが伴うもの、現状では社会問題として話題性が低いものなどは、一般には名の知れない小出版社から発行されることも多い。しかもそれらの出版社は、全共闘世代の人物が今も代表を務めている場合が多いのだという。今回はそれらの小出版社の現状を探りつつ、4社の代表らに話を伺った。
『韓国・北朝鮮を永久に黙らせる100問100答』(ワック)
社会問題に鋭く切り込んだ“タブー破りの本”を並べてみると、書店やベストセラーのランキングではあまり見かけない出版社の本が目立つことに気づくだろう。確かに大手出版社でも、出版差し止めなどのリスクのある告発本や暴露本などを出版することは多々あるが、毎日ほぼすべての新刊情報をチェックしているという社会評論社の編集者・濱崎誉史朗氏は「タブー破りの本を出すのは零細出版社が圧倒的に多い」と語る。
「零細出版社の場合、社長自身が変わり者だったり、編集者の企画が会議なしに通っていたりするので、危ない本が生まれやすいんです。宝島社のように組織的にタブー破りの本を作る中堅出版社もありますが、会社が大きくなると守りに入ってしまうのが普通ですからね」(濱崎氏)
そんな小出版社の代表者の共通点は、安保・全共闘世代だということ。タブーに挑む姿勢の裏には左翼などの流れがあると濱崎氏は続ける。
「『流出「公安テロ情報」全データ』【1】で物議を醸した第三書館、反戦自衛官が社長の社会批評社、私が所属する社会評論社なども、左翼の流れをくむ出版社の一例ですね。こうしたタブー破りの本を発行する小出版社の多くが所属するのが、『流対協』(出版流通対策協議会)。左翼系を中心に、100近い出版社がこの組織に属しています。インパクト出版会、新泉社、同時代社、拓植書房新社ら、その流対協の会員の一部も参加する『NR出版会』、ポット出版らが設立して約180社が集う『版元ドットコム』などにも、過激な出版社が多い印象ですね」(同)
一方、右寄りの出版社には、表立った組織は見えないという。
「数自体も、左翼系出版社の10分の1ぐらいでしょうか。代表的な存在は『韓国・北朝鮮を永久に黙らせる100問100答』などネトウヨ受けしそうな書籍を多く発行しているワックや、反創価学会の書籍でも有名な日新報道、それに展転社などでしょうか」(同)
出版専門紙「新文化」の元編集長で、現在は「図書新聞」などで執筆を行う諸山誠氏も、「タブー破りの本を出し続ける小出版社では、団塊世代のいいオヤジさんたちが今も頑張っている」と話す。
「社員数は4~5人程度という会社が多く、流対協の会長・高須次郎氏が代表を務める緑風出版も、ご夫婦が中心の小さな会社です。なお同社は2004年に『崩壊したごみリサイクル~御殿場RDF処理の実態』【2】という書籍で名誉棄損裁判を起こされ、勝訴しています。訴訟リスクのある問題に踏み込み、実際に訴訟にも勝つような出版社こそが、正統派のタブー破りの出版社だと言えるでしょう」(諸山氏)
そんな小出版社の多くはノンフィクションに力を入れているが、発表の場となるべき雑誌も廃刊続きで、業界の現状は厳しい。
「好景気時代の雑誌なら、訴訟を起こされても売り上げで回収を……という考えもありましたが、近年は訴訟額も上がっていますし、小出版社ではそうもいきません。出版業界が体制に迎合しがちな中で、大手メディアも避ける危険な話題に踏み込む姿勢は称賛に値します」(同)
その中で諸山氏が「タブー破り」と推すのは次のような出版社だ。
「七つ森書館は古くから脱原発の書籍を刊行しており、最近は清武英利氏の読売新聞社会部時代の書籍『会長はなぜ自殺したか──金融腐敗=呪縛の検証』の復刊で、読売新聞から提訴されましたが、仮処分で勝訴しています。同じく裁判沙汰になって勝訴したルポルタージュ『ルーシー事件─闇を食う人びと』【3】や、かつて『あさま山荘1972(上下続)』で話題を呼んだ彩流社も硬派な書籍を出し続けてきた出版社です」
それではここまでで名前の挙がった出版社の代表に、出版におけるタブーについての考えなどを、尋ねてみよう。