――凋落が止まらぬ出版業界。市場の低迷に対して、大手出版社では11年頃から、従業員の給与引き下げに着手し始めている。
『私にはもう出版社はいらない』(WAVE出版)
「もともと、年収1000万以上はざらというほど、大手は業界の標準をはるかに越えた給与体系。しかも、企業年金などの福利厚生も手厚かった。それが見直されているということは、むしろ出版界が本当に苦境に立っていると言うこともできる」と、中堅出版社の営業幹部は話す。
だが、出版業界で大手といわれる企業はそれほど多くはない。さらに大手出版社の場合、不動産事業など出版以外の収入も多い。
むしろ市場規模1兆8000億円といわれる業界の中で、本当にしのぎを削っているのは中堅・小零細出版社だ。これら中小版元が次々と倒産していく中で、次はどこの出版社が危ない、といったような不穏な噂が飛びかっている。最近では、ギャンブルやアダルトのマンガが強いT社の名が取り沙汰されているようだ。
「『雑誌の原稿料の支払いが遅れている』といった話や『社員の夏のボーナスがカットされた』など、倒産関連の話になると常に話題に上がってくる」と同社の元社員は嘆く。さらに、別の出版関係者からは「印刷会社への支払いを2回ほど先延ばしにしているようだ」という話も出た。
同社は、この印刷会社に対して億単位の支払いが滞っているともいわれているが、「以前から倒産の噂がある会社なので、ほかの取次会社や印刷会社も資産の保全措置をとっているのでは? 取引状況を見ても、すぐに倒産というほどではない」(大手取次会社の担当者)という。
出版業界
市場のシュリンクに歯止めがからぬ出版業界。出版物の最大販売ルートである「書店」の新規出店が2011年は240店にまで落ち込む一方、同年の廃業店は804店と3倍以上に上っている。
出版界では3年程度を周期にして、すでに倒産したゴマブックスや理論社など、特定の出版社の苦境が話題になるもの。T社もその一社で、09年にも「銀行の管理下になる」「大リストラが始まる」などと社内外を賑わせていたが、日がたつにつれて収束していった。倒産の噂は出るが、なかなか潰れない──業界の不安な空気をかき消すために、ネタになりそうな企業を探しては、業界関係者で噂にしているようだ。
事実、同社のように度々噂にあがるムック本に強いN社も、結局、大手書店関連会社の元役員が経営する会社の子会社となり、今も事業を継続している。
「出版社の倒産は、経営者の体調不良と後継者不在により、今月自主廃業をする見込みの日本出版社のようなケースもある。同社は猫の雑誌とカレンダーを、編集部ごと辰巳出版グループに引き継ぐようだ。最後まで粘って倒産するより、凌げるうちに身売りするほうが正しい判断。T社がどうなるかは、経営者の判断次第だろう」(出版社の営業幹部)