『名言力』(ソフトバンククリエイティブ)
──本特集で触れてきた通り、松下幸之助を筆頭に、カリスマ経営者の「お言葉」「名言」をまとめたタイプの本は、ビジネス書としても人気を誇っている。そこでここでは、『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(ソフトバンク新書)の著者であるライター・大山くまお氏に、今読んでおきたい2社の創業者の「名言」をピックアップしてもらった。
苦境が続く日本産業界の両巨頭、パナソニックとソニー。依然として回復の兆しが見えない両社だが、それなら一度原点に立ち返ってみるのはどうだろうか? それぞれの創業者、松下幸之助と盛田昭夫、井深大は、カリスマ的な企業家としていまだに人気を誇っている。その人気の一端を支えているのが、彼らが残した数多くの「名言」だ。名言とは、先人の知恵をじっくり煮込んで旨みを抽出したサプリメントのようなもの。カリスマ創業者の言葉から両社の社風を読み解き、業績回復への鍵を探し出してみよう。
■Panasonic
松下幸之助
「雨が降れば傘をさす。そうすれば濡れないですみます」
丁稚奉公から身を起こし、一代でパナソニックを築いた松下の立身出世伝とその教えは、戦後の焼け跡から高度経済成長期を経てバブル期に至るまで、経済大国への道を歩んだ日本の人々が共有した一種の“神話”だった。彼が記した膨大な書籍や発言集を読むと、“当たり前のことを当たり前に、一歩一歩コツコツやる”という堅実きわまりない精神が浮かび上がる。これぞ戦後日本人の労働観と言えるだろう。雨が降れば傘をさす。平凡だが、これを当たり前にやることこそ商売の秘訣と松下は説く。儲けが出る事業は続け、出ない事業はやめる。メンツやしがらみで不採算部門を即座に縮小できない大企業の実態を松下翁が見たら、叱責が飛んできそうだ。
「一度転んで気が付かなければ、七度転んでも同じこと。一度で気のつく人間になりたい。そのためには『転んでもただ起きぬ』心がまえが大切」
松下には「こけたら立ちなはれ」という名言もあるが、ここでは単に立つだけではダメだということがはっきり述べられている。失敗してもかまわないが「七転び八起き」しているようではダメ。同じ失敗は二度繰り返すな。そして何かを得てから起き上がれ。シンプルながら苛烈な教えであり、パナソニックが現在の苦境から何を得るかが問われているようでもある。なお、この言葉が収められた松下の随想集『道をひらく』は、現在までに180刷以上、480万部を突破している驚異のベストセラー。なにより、1968年初版の本がいまだにどこの書店にも新刊本として置かれていることがすごい。