──4月より新社長兼CEOに着任した平井一夫氏は、「SCEのビジネスモデルをソニー全体に応用する」との方針を語るなど、ここにきてSCEをソニー再建の鍵と考えているようにうかがえる。果たしてゲーム事業が本当にソニーを救えるのか? 識者の話をもとに、SCEの可能性を探る──。
SCEの主力製品【1】
■PlayStation3(PS3)
日本での発売日:2006年11月11日/世界累計販売台数:6200万台以上(2012年度3月末時点)
言わずと知れたPlayStationの3代目。最初こそ販売数は伸び悩むも、度重なる値下げで、順調に売り上げを伸ばし続けている。
SCEの主力製品【2】
■PlayStationPortable(PSP)
日本での発売日:2004年12月12日/世界累計販売台数:6900万台以上(2012年度3月末時点)
PlayStation発売10周年を記念して発売された携帯ゲーム機。無線LAN搭載で、ネットワークへの接続が可能。『モンスターハンター』シリーズのリリースで普及した。
SCEの主力製品【3】
■PlayStation Vita(PS Vita)
日本での発売日:2011年12月17日/世界累計販売台数:180万台(2012年3月末時点)
PSPの後継機。前面と背面に有機ELディスプレイを搭載。3G/Wi-Fiに対応するなど、マルチメディア機としての性能が評価されることも多い。
「ソニーを変える」。4月1日よりソニーの社長兼CEOに就任した平井一夫氏は、経営方針説明会でソニーの変革を強調した。「変革」「再生」というスローガンは、前CEOであるハワード・ストリンガー氏の時代から繰り返し掲げられてきたものだ。PlayStation(以下、PS)などのゲームを扱うソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)出身の平井氏は、ロイターのインタビューで「(ハードだけでなく、ネットワークを通じたコンテンツ配信も重視する)SCEのビジネスモデルをソニー全体に応用していく」という方針を掲げた。「ネットワークサービス」は、ストリンガー時代より重要経営課題とされ、平井氏がSCEの代表取締役社長と兼任して、ソニーの執行役EVPに就任した2009年頃から携わってきた事業だ。しかし、この方針は従来のエレクトロニクス製品中心のソニーのイメージを覆すものといえる。なぜこのタイミングで、SCEという、いわばソニーの傍流に期待がかかっているのだろうか。その理由を識者の言などから探ってみよう。
SCEの事業規模が、ソニー全体の中でもかなり大きいのは事実だ。11年度のゲーム事業は、売り上げとしては7400億円超と、エレクトロニクス事業の王様として君臨してきたテレビ事業の8400億円に迫る勢いとなっている。
だが、その事業自体が好調かというと、そうとも言い難い。次世代携帯機として期待を集めたPS Vitaは、発売から3カ月とたたない今年2月の単月販売台数が前世代機であるPSPのそれにすら及ばない状況で、滑り出しの不調が目立つ。PS3も、世界累計出荷1億5000万台を記録し市場トップを独走していたPS2に比べると、かつてほどの支配力を得られてはいない。
さらに大きな問題は、ゲーム市場の多様化だ。いまや、任天堂といったゲームメーカーだけでなく、フェイスブックや携帯アプリなど、無数のプラットフォームがゲームコンテンツを提供している。ゲームアナリストの平林久和氏は「独自プラットフォームを基盤としたビジネスはリスクが大きくなっている」と指摘する。
「PS2が主流だった00年代前半までの時代は、ゲーム専用機であることの強みがありました。高価なPCと同等以上の性能のゲームを、数万円のハードで提供できたわけですから。しかし、現在ではPCやスマートフォンの価格低下と性能向上が進んでおり、Windows PCやiPhoneといった、ほとんどの人が持っている汎用端末がゲームのプラットフォームとして機能するようになっています。わざわざゲーム専用機を作るというのは、開発費用がかかるだけでなく、ユーザー数をハードの購入者だけに限定する結果になりかねない」(平林氏)