──山本一郎氏は、ブログ等でたびたびソーシャルゲーム業界に対する叱咤激励を行ってきたひとりだ。自身も業界にかかわる氏の目に映る、今の業界の問題点とは?
山本一郎(やまもと・いちろう)
コンサルタント。元「切込隊長」。00年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など、技術動向と金融市場に精通している。
【○】実験的なタイトルへの挑戦ができ、コンテンツ業界の裾野が広がった。
【×】「規制がかかるまで稼げるだけ稼ぐ」のでは、ビジネスとしての持続可能性が危うい。
──ソーシャルゲーム業界に関して、山本さんはブログやウェブサイト「4Gamer.net」の連載などで、関連企業のブラックさや、いわゆる「ガチャ」が孕む景品表示法違反の可能性などをこれまでたびたび取り上げられています。いわば批判派の急先鋒として、現在のソーシャルゲーム業界で最も問題だと思われる点はどこでしょう?
山本一郎(以下、山) 私もソーシャルゲーム制作に携わっておりますし、批判派というわけではありません。問題は「これが持続可能なビジネスなのか?」という点です。成長しているから支持されているサービスなのだという認識を業界では持っていますが、それは一面で正しいものの、未成年者に対する高額請求や、射幸心を煽る演出といった、パチンコ業界や風俗業界と同じ先鋭化によって市場が形成されているものであり、「これはいずれ社会問題になるぞ」とずっと思っておりました。プラットフォーム業者は優秀な人が揃っているので、どこかで転回して社会と折り合い、利益を制限するような施策を取るかな、と思ったのですが、彼らの結論は「規制がかかるまで、稼げるだけ稼ぐ」ということになったようなので、モラル面も踏まえて問題を提起したつもりです。
──5月5日には、消費者庁がコンプガチャを景品表示法に抵触すると判断した、と報じられました。懸念され続けてきた規制が始まることになりますが、これに対して業界はどう反応するでしょうか? 業界の勢力図が一変する可能性もありますか?
山 一時的に、業界の収益は低下すると思われますが、単にコンプガチャが景表法で規制されたとしても、より創意工夫を凝らして次なる仕掛けを考えることで収益性は回復する可能性があります。この流れについていけた業者と脱落する業者が出るとは思いますが、しばらくソーシャルゲームの流れは変わらないでしょう。
ただし、現在の収益性は異常で、常習的な利用者が業界全体を引っ張る歪な構造であることに変わりはありません。したがって、業界が「コンプガチャ規制」を乗り越えて収益性の高い別の仕掛けを考えたとしても、これらのハマりすぎた利用者に依存したままであれば、パチンコに対する規制同様、デジタルコンテンツを販売するという業界自体に規制が入ると思います。つまり、消費者庁管轄下の景品表示法よりもはるかに重い、警察庁による風俗営業法の管理下に業界が置かれ、デジタルコンテンツとしてケータイ上で射幸心を煽る仕掛けそのものに規制がかかる可能性が高くなる、ということです。