──『経済小説が暴くタブー【1】』の鼎談をより楽しんでもらうために、企業小説というジャンルが花開いた高度経済成長期以降の歴史を、各年代の代表的作家と作品を中心にざっくりまとめた。これから手に取ろうとする人の案内となれば幸いだ。
高度経済成長期のとばぐちである50年代後半にデビューを飾り、この時代に開花した経済小説家といえば、【城山三郎】と【梶山季之】を除いてほかにない。当時愛知学芸大学の専任講師だった城山三郎は、58年、メキシコでひとり孤独に戦うエリート商社マンの挫折を描いた『輸出』でデビューを遂げた。59年には老いた総会屋のボスを描いた『総会屋錦城』で直木賞を受賞。60年には横井英樹を描いた『乗取り』を上梓した。その後も『真昼のワンマン・オフィス』(74年)、『毎日が日曜日』(75年)などの企業小説を多く発表した。同時に、『辛酸』(61年)、『黄金の日日』(78年)などの歴史小説の領域でも活躍している。
一方の梶山は、50年代からフリーライターとして「週刊新潮」などで記事を執筆する、ジャーナリストであった。創刊間もない「週刊文春」では彼を中心としたトップ屋集団「梶山軍団」が数々のスクープをモノにしている。トップ屋引退後、作家活動に専念。あずき相場を扱った『赤いダイヤ』(62年)や、産業スパイという名称を一般化させた自動車業界の内幕を描く『黒の試走車』(62年)をこの時期に次々と発表。新幹線汚職を題材にした『夢の超特急』も63年に刊行された。その他に、西武グループ創設者の堤康次郎をモデルにした『悪人志願』(66年)などがある。