──低迷する日本経済の中で、それでも輸出ナンバー1を誇るトヨタ。だが、その裏では、国内外で労働争議が起こっているのをご存知だろうか。実はこうしたニュースが、日本で報じられることは少ない。ここでは、国内外のトヨタ労働争議を追っているジャーナリストの林克明が、フィリピン、そしてフランスでの事例を見つつ、その実態に迫った。
デフレの影響により、日本企業の海外移転の報がよく聞かれる。今後は、第2、第3のトヨタが出て来ぬよう、しっかり監視しておきたいところだ。
「世界45カ国で反トヨタ世界キャンペーン、各国日本大使館前でデモ」「フランストヨタで18日間連続スト」「北米トヨタ セクハラで1億9000万ドルの損害賠償請求訴訟」
もしも新聞やテレビが、このような事実を報道すれば、多くの人のトヨタ自動車に対する見方が変わるだろう。北米セクハラ事件に関しては日本でも報道はされた。それは、米国各紙が立て続けに報道したので、国内でも報道せざるを得なかったからである。日本企業が生産拠点を海外に移転することが多くなった昨今、こうした労使紛争は増加傾向にあるという。
しかし、世界45カ国で一企業への抗議行動が展開されるなど、トヨタの労使紛争は目立っている。さらに、フィリピントヨタで10年以上も労働争議(ページ下ボックス内CASE参照)が続いていること、国内でもパワハラ・うつ病・解雇・偽装請負などで、いくつも裁判闘争を抱えている。
トヨタ自動車グループは、日本経済の牽引車として、「かんばん方式」に代表される効率的経営のモデルとしてもてはやされているが、こうした事実は日本ではあまり報じられない。一方、海外ではある程度報じられているので、このままでは、知らないのは日本の住人だけ、ということになりかねない。かくいう私も、5年前までは実情を知らなかったのだから。
2007年のある日、トヨタ自動車東京本社前で、普段はあまり目にしない光景を見た。200人くらいの労働組合員らが、旗を立ててトヨタに抗議活動をしていたのである。その中に、フィリピントヨタ労働組合のエド・クベロ委員長(当時38歳)がいた。そこで私は、233名もの労働者がほぼ同時に解雇されて争議が続いていることを、初めて知ったのである。マイクに向かうクベロ委員長が語気を強め、「トヨタはフィリピン人の血を吸って利益を上げている」と訴えていた。
労使紛争が起きた当時のフィリピントヨタは従業員約1700人で、生産台数・販売台数共に同国最大の自動車メーカーだ。クベロ委員長らは、実質的に活動ゼロになっていた既存組合では生活が改善されないと、98年にフィリピントヨタ労働組合(TMPCWA)を結成し、労働雇用省に登録した。フィリピンの法律では、労働協約を結ぶ労使協議を行うためには従業員による組合署運選挙が必要なため00年に実施したところ、過半数を超える得票で承認を得た。
ところが会社は、選挙結果を認めず団体交渉にも応じないどころか、国(労働雇用省)に対して異議申し立てをしたのだ。フィリピントヨタ側の主張のポイントは「課長クラス105人の投票が票数に含まれていないから、無効だ」というもの。しかし、翌01年3月16日、労働雇用省長官による裁定で組合側が勝利した。ところがその当日に同社は、大量の組合員を解雇(233名、10年に4名解雇で合計237名)。ここから10年以上にも及ぶ大争議が始まったのである。