(写真/松村隆史)
──今月の「ソフトバンクと孫正義」特集では、孫正義氏とその事業について論を進めてきたが、そんな孫氏に振り回された男がいる。元・総務大臣の原口一博、その人だ。原口氏が09年に掲げた「光の道」構想は、孫氏のプロパガンダによって広く知れ渡ると同時に、多くの批判に晒されることとなった。今、原口氏は「光の道」構想が矮小化されてしまったと言う。国会会期中の限られた時間の中で、我々にその真意を語ってくれた。
2009年、当時総務大臣であった原口一博氏は、ICT(情報通信技術)と地域分野の成長戦略を示した「原口ビジョン」の中で、“15年までに全国民がブロードバンドサービスを利用可能にする”「光の道」構想を提唱した。当時、その実現をめざす検討会議「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」のメンバーであった孫正義ソフトバンク社長は、この構想を全面支持し、NTTのアクセス回線部門を構造分離させて、別のアクセス回線会社を設立すれば税金の投入ナシで実現可能だと提案。それに対し「ソフトバンクはNTTが築いたインフラにタダ乗りしようとしている」という批判の声が上がったほか、「今さら国策としてやるべきことか?」「問題はインフラの整備ではなくネット利用率の低さ」などと物議を醸した。ところが、最近では議論の俎上にのぼることがほとんどなくなっている。「光の道」構想は現在、どうなっているのか? 原口衆院議員をITジャーナリストの井上トシユキが直撃した。
井上 「光の道」を提唱した当時、「FTTH(Fiber To The Home=光ファイバーを一般個人宅に引き込むこと)」が大きく報道されました。しかし、スマートフォンブームなどでワイヤレス通信の比重が増す中、世間は「FTTH」にあまりピンときていなかったように思います。実際、FTTH網の人口カバー率90%にもかかわらず、加入率は3割。それは、国民から求められていないということではないでしょうか。
原口 当時、「光の道」の議論は「FTTH」の問題に矮小化されがちでした。「A社には有利でもB社には不利では」と”為にするような目先の議論”をして一部の人が足をひっぱっていました。「FTTH」は、「光の道」の一部であって主眼ではありません。電波は有限で、級数的に膨大な通信容量が発生しています。通信のトラフィックが混んでいる現状のままでは、ある一社の回線がダウンすると、輻輳が生じて他社もダウンしてしまう。東日本大震災を経て、今の日本で通信が途絶することは命にかかわります。それを見越してモバイル社会を実現するためにも、早めに「光の道」に情報を移していかなければならない。「光の道」構想の目標は、「アクセス100%」でなく「アダプション(利用率)100%」です。