──ノンフィクション作家の佐野眞一氏が書いた孫正義伝『あんぽん』。同書にはこれまで知らなかった等身大の孫正義が随所に描かれている。孫には“ソフトバンクの創業者”“情報革命の伝道師”“「脱原発」推進派”など、今や日本をリードしていくような肩書がついて回るが、同胞である在日コリアン社会や韓国本土では、どのような評価を得ているのだろうか?
『あんぽん』(小学館)
詳細は前ページのノンフィクション作家・佐野眞一氏の著作『あんぽん』に譲るが、孫正義は1990年9月に日本に帰化、「安本」ではなく本来の姓である「孫」を名乗ることを選んだ在日コリアン3世だ。かくいう筆者も大阪生まれの在日コリアン3世である。
そんな孫が2011年、米誌「フォーブス」が発表した世界長者番付で日本人ではトップ(総資産額81億ドル、世界113位)、今年も同誌発表日本人2位で、ビジネスパーソンとして確固たる地位を築き上げた。日本の政財界にこれほどまで影響を与えている在日コリアンを私は見たことがないが、同じ境遇の在日たちは彼の姿をどのように見つめ、また、『あんぽん』に何を感じたのだろうか? 孫と同郷の福岡県出身在日3世の女性(34歳/主婦)は、こう語る。
「父から聞かされた昔話がよみがえるようでした。朝鮮半島から日本に渡ってきて苦労したという筑豊炭鉱の話はよく聞かされていました。特に孫さんが朝鮮部落で豚と一緒に過ごしていたとは、さすがに想像もできませんでした……。ただ、養豚、密造酒、金貸し、パチンコなどはかつて日本に渡ってきた在日1世が生きるためにしてきたことなので、程度は違っても、そう珍しい話ではないです」