──"ネット右翼"という単語が象徴するように、安直なナショナリズムが践雇する右翼。"理想論を掲げ、狭量できれいごとしか言わない"と見られがちな左翼。"ナショナリストな左翼"を自認する哲学者・萱野稔人氏に、薄っぺらな右派左派ブームに惑わされないための良書を聞いた。
(写真/江森康之)
萱野 まずネット右翼とされる人たちに対する僕の理論的スタンスについて、お話ししたいと思います。三浦展氏の『下流社会 第2章』(光文社新書)の最初に、自分が下流かどうかを確かめる「下流度チェック」が掲載されているのですが、その中に「韓国や中国はいやだと思うことが多い」という設問があるんです。
──つまり、嫌韓・嫌中の人は下流が多いと?
萱野 もちろん学問的には簡単にそうとは言い切れないのですが、ここで示されているのは、グローバル化していく社会から取り残された人々がその危機感の裏返しとして嫌韓や嫌中といったナショナリズムに走っているという構図です。社会の脇に追いやられた人々が「日本人であること」に依拠しながら自らの存在をアピールしているわけで、だからこそ彼らは「反日的なもの」に過剰に反発してしまう。この意味で、これまで左翼が行なってきたような、ナショナリズムの負の側面だけの批判はそれほど有効ではありません。なぜ彼らのようなナショナリズムが出てきたのかという背景を問題にし、彼らの危機感に響くようなことを言っていかないと、今のナショナリズムには対処できないと思います。
──現在の左翼には、それができていないと?