――兄のマンションでくつろぐ両親、父親の古希を祝うためレストランに勢揃いした家族や知人たち、ボウリング場ではしゃぐ姪や甥っ子……。スクリーンに映し出される光景は、ごく平凡なホームビデオの映像となんら変わりない。ただ、父親が朝鮮総連(在日本朝鮮人総聯合会)の元幹部で、兄たちが暮らすのは、北朝鮮の首都・平壌であることを除けば。
日本で生まれ育ち、ニューヨークへの留学経験もある梁監督に、幼い姪のソナが、これまでに観た演劇について尋ねるシーンが印象的。なお、成長したソナはその後、大学の英文科に入学しているとのこと。
在日コリアン二世である梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督のドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』(05)は、梁監督が6歳の時に帰国事業(1950年代に始まった、在日朝鮮人による北朝鮮への集団移住)で未知なる祖国・北朝鮮に渡った3人の兄たちの平壌での暮らし、そして対外的には「将軍様に忠誠を」と唱えながらも息子たちを北朝鮮に送ったことに後悔の念を抱く父親、せっせと平壌に仕送りを続ける母親の姿をビデオカメラで収めたもの。巨大マスゲームや脱北者といったニュース映像とは異なる、平壌で暮らす一般市民の日常風景が新鮮な印象を与える。06年ベルリン映画祭最優秀アジア映画賞を受賞するなど、世界各国の映画祭で高い評価を得た。だが、同作の公開後、監督は北朝鮮への入国を禁じられてしまった。その状況下で、前作で使用しなかったシーンを中心に構成し、5年ぶりの続編『愛しきソナ』を完成させた梁監督に、入国禁止になった経緯や、マスコミ報道では見えてこない北朝鮮の内情について聞いた。