──『星の王子さま』『カラマーゾフの兄弟』『ライ麦畑でつかまえて』──2000年代初頭より続く、村上春樹、柴田元幸らの著名文化人による海外文学の「新訳」ブーム、その裏にある、出版にいたるまでの苦労を徹底究明。そして、あの佐藤江梨子と辛酸なめ子が、名作『ライ麦畑でつかまえて』をガチンコ翻訳対決!!
(写真/菅野ぱんだ)
世は深刻な出版不況。中でも海外古典文学は、1960年代前後の世界文学全集ブームの終息以降、最も売れないジャンルのひとつとされてきた。ところが近年、海外古典文学の新訳版が続々と刊行されて人気を博し、翻訳者名で本を選ぶという現象も見られるようになるなど、"古典新訳ブーム"が巻き起こった。そうしたブームの背景を押さえた上で、海外古典文学の翻訳出版の内情に迫ってみよう。
まず、ブームの先駆けとされるのが、『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝/訳、白水社、64年)の新訳である、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社、03年4月)の刊行だ。村上春樹による平易で流麗な文体が反響を呼び、古典作品としては異例の売り上げを記録した。続いて05年1月、『Le Petit Prince』(邦題『星の王子さま』)の日本における著作権保護期間が切れて出版ラッシュとなり、ブームに拍車がかかる。さらに、06年9月に刊行を開始した「光文社古典新訳文庫」が大ヒットし、同時に、"誤訳論争"がメディアを賑わせた(各社の出版傾向については下を参照、新訳の内容等については当特集【2】を参照)。