男子100キロ超級代表の石井慧は、柔道界の異端児である。
これまで日本の柔道は、常に相手と組み合い、「一本」を取ることを美徳としてきた。僅差のポイントで決まる勝負を良しとせず、先日引退した井上康生のように、そのままタイムアップを待てば勝てたかもしれない試合終盤に大技を狙い、相手に返されて敗れたとしても「得意の内股が返されたのだから仕方ない」と言って引退を決めたいさぎよい姿勢こそ、日本柔道の鑑と言える。
しかし、石井の柔道は井上と対極にある。「一本」は捨て、とにかく相手に自分の柔道をさせず攻勢を保って優勢勝ちを呼び込む。相手をキレイに投げ放つことでなく、あくまで勝利にこだわる姿勢を貫く。
「一本を狙うことはリスクを伴う。一本でなければ勝てなかったり、オリンピックに出場できないのなら狙いますけど、違いますよね? 僕は勝つことに対してハングリー。だから一本は必要ないっす」
日本のすべての柔道家が憧れる舞台であり、「五輪で勝つことよりも難しい」と例えられる全日本選手権も、石井にしてみれば「しょせん、日本の大会。ちっちゃい、ちっちゃい。あくまでオリンピックの予選でしかない。僕の目標は世界」と言い切るのだ。