──本誌連載「ITインサイド・レポート」が、特集に合わせ、拡大出張。4月に『電子書籍の衝撃』を紙と電子書籍のそれぞれで出版し、注目を集めているジャーナリスト・佐々木俊尚が、電子書籍という"黒船"来襲の最前線で見た日本の出版業界の現状と未来を分析する。
佐々木俊尚氏が著した『電子書籍の衝撃』。
私は4月15日に『電子書籍の衝撃』という本を、独立系の出版社であるディスカヴァー・トゥエンティワンから上梓した。同書は発売から2週間余りで発行部数5万部を超えるなど、かなりの反響を呼んでいる。本の内容は読んでいただければと思うが、ごく簡単に説明すればこういうことだ──アップルのiPadやアマゾンのKindle、そしてグーグルのブック検索などアメリカ勢が、電子書籍ビジネスを全面展開し始めている。そして日本市場にも上陸しようとしている状況に対し、日本の出版業界や著者からは「海外勢から出版文化を守れ」といった反発の声が上がっている。だが日本の出版業界は、取次を軸とした流通プラットフォームが、今や文化的にも経済的にも破綻一歩手前の状況に陥っている。衰退する出版を救うためには、現状の流通システムを一新し、電子書籍化することで新たな「本の読まれ方」を構築するしかない。
そして今、同時に、ツイッターやブログ、SNSなど、人と人がつながり、そこで情報が共感と共に交換されるソーシャルメディアの空間がインターネット上には形成されてきている。こうしたソーシャルメディアによって、本の情報が「書店の平台の位置」「版元の営業力」「著者の知名度」といったパッケージではなく、「今なぜ私が、その本を読まなければならないのか」「その本が持っている社会的意味とは何か」といったコンテキスト(文脈)と共に流通するようになれば、本の読まれ方は大きく変わり、読者と本と書き手をつなぐ新たな空間が生まれてくるのではないか──。