世の中、不景気だの、消費が冷え込んでいるだのといった暗いニュースばかりが流れている。景気をよくするには、国民がもっとお金を使うようにならなければならないなんてが言われているが、そんなことを聞くと、俺が現役力士だった頃、師匠(おやじ)の春日野親方からこんな言葉をよく言われたことを思い出す。
「おい、おまえたち。若いくせに貯金なんぞしている人間に、ろくな者はいないんだ。相撲取りは宵越しの金なんぞは持たないんだよ。強くなって関取になれば、金はいくらでも入ってくるんだ」
これがおやじの口癖だったな。なるほど、それはそうだ。力士は、食事から、寝るところまで、すべて相撲部屋に用意してもらえる。懐に1円も入ってなくても生きていけるのが、力士の世界なのだ。