とかち麺工房に限らず、日清や明星、エースコックなど、大手食品メーカーが鎬を削って有名店との契約に力を入れている。
コンビニやスーパーでは、今や定番となった「有名店とのコラボ」麺がズラッと棚に並んでいる。現在、9割がた味を再現できるというカップ麺製造の裏側は、はたしてどうなっているのだろうか? 業界の動向と共に探った。
有名店の名が全国に知れ渡る際には、店の冠をつけたカップ麺の存在も大きい。前出の木村氏は「カップ麺の発売は経営にプラス。"カップ麺を出している"ということが、ブランドの信用に結びつく」という。
有名店とのコラボカップ麺の第一人者として知られるとかち麺工房では、現在までに約250店舗と共同開発をしてきた。売れるカップ麺を作るためにはもちろん、タッグを組むラーメン店が重要。数々の有名店と契約を結んできた山本正人専務が、製作の裏側を語ってくれた。
「先日発売した『桂花ラーメン』(現在は販売終了)は、もともと私が好きなラーメン店で、ずっと商品化したかったんです。でも、競合メーカーすべてがすでに断られていて、弊社も最初は門前払い。そこで、先に試作品を作って持っていったんです。それを孫娘さんが気に入ってくださり、店主を説得してくださったおかげで商品化することができたんです」
初回の試作品で、なんと90%以上、味を再現できるという。それから微調整を重ね、平均2~3回、多いときで6~7回のプレゼンで商品に。期間にして、およそ3カ月。ところが、「麺屋武蔵」は商品化までに約1年以上を費やしている。
「名店コラボシリーズは通常298円で売り出しているのですが、開発途中の昨年秋から経済状況が悪化し、それでは高すぎるという話になったんです。そこで198円に値下げすることを考えたのですが、分厚いチャーシューのレトルトを一般的な乾燥かやくのチャーシューに変更しなければならない。最終的には価格よりも質を優先しようということになりました。この商品は『麺屋武蔵 神山らー麺』として12月1日に発売予定です」
店がこだわれば、それだけ原価が上がる。店主としては、安くてそこそこのものより、おいしいものを作ったほうが売れる=儲かるという考え方なのだろうか。
「店に支払う監修料は1食何円という計算。金額は公表できませんが、どこの店主さんも、お金儲けのためより、自分の店のラーメンがカップ麺になるということ自体がうれしいようですよ。契約金でもめたことは一回もありませんから」
現在、カップ麺の販売個数は、1商品につき20万食程度。1カ月以内に完売できる量しか製造しないのだという。これまでの最高ヒット商品は、01年に発売したある有名店商品の240万食だそうで、1商品当りの販売個数はだいぶ少なくなった。その分、月3品開発し、商品点数で稼いでいるのだ。今や、カップ麺業界も実店舗のラーメン業界も、非常に早いサイクルの中で動いているのである。
(文/安楽由紀子、秀也)
株式会社とかち麺工房
1928年、味噌醤油醸造業として創業。48年、製麺業開始。71年、十勝新津製麺株式会社設立。2000年、有名ラーメン店とコラボレーションカップ麺の製造開始。09年、社名を株式会社とかち麺工房に変更。茹でたあと6日間かけて凍らせ乾燥させる「氷結乾燥法」によるコシのある麺が特徴。
ゴッドタンを持つ男、中山雅浩氏に聞く!『ベロメーター』が 生み出す名店の味
とかち麺工房で商品の開発を担当するのは中山雅浩商品開発部長。店頭で一度食べただけで、忠実にその味を再現してしまうのだという。そればかりか、「店よりおいしくなっちゃうこともある」(山本氏談)そう。月に1回出張し、多いときでは3日で6店分の味を覚えて帰るそうだ。
「私なりの記録表は付けています。自分の『ベロメーター』を基準に、甘みはこれくらい、塩っ気はこれくらいなどと記録します。それをもとにポーク、チキン、かつおぶし、にぼしなどのエキスを配合してるんです」
エキスそのものは専門の業者が製造したもの。何百種類とあるが、味だけでなく色も含め、その特徴はすべて頭の中に入っている。煮込んで出した本物の味を、エキスの配合だけで似せて作る。お店のレシピは聞かず感覚に頼ったほうが、かえってうまくいくそうだ。「ただ、どうしてもわからない隠し味もあるんです。何度か店主さんとやりとりしていくうちに『これはうちの隠し味だから、絶対秘密だよ』と教えていただいたこともありました。この秘密は、墓場まで持っていきますよ。再現が難しいのは、既存のジャンルにないメニューですね。以前発売した盛岡の『遥遥屋 小吃店 味噌煮込じゃじゃ老麺』は特に難しかったです」
鋭い味覚を保つために、大切なのは体調管理という。この仕事に携わって10年。タバコはやめ、お酒も一滴も飲んでいないそうだ。さすが、プロ!