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第1特集
狙うは第二の北野武? 吉本芸人が映画を撮る本当の理由【1】

松本人志、品川、キム、板尾創路......芸人映画監督の実力と真相

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──今年に入り、公開ラッシュとなった吉本芸人監督映画。話題性だけで注目は集めるも、その興行成績や評価はバラバラ。はたして映画界進出に隠れる吉本の思惑とは?公開間近の板尾創路初監督作品の裏側から、その真相に迫った──。

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初監督作品『大日本人』がカンヌに招待され、一部ではポスト北野武の呼び声も高かった。しかし、2作目は大不評。興行収入も前作の半分に届くかどうか。

 ここ数年、日本映画界にはいわゆる異業種監督が続々登場している。つい最近も、俳優の岸谷五朗や、人気脚本家として知られる北川悦吏子といった面々がデビューを飾り、今月頭には、いまや若手俳優の頂点(!?)に君臨する、小栗旬の初映画監督作品の公開も決定した。そんな中でも今年目立ったのが、お笑い芸人の映画監督進出だ。しかし、よく考えてみれば、2009年に映画監督作品を発表したのは『しんぼる』の松本人志、『ドロップ』の品川ヒロシ、『ニセ札』の木村祐一、『南の島のフリムン』のガレッジセール・ゴリと、いずれも吉本興業所属のタレントばかり。正確には、"吉本芸人監督ブーム"と言うべきだろうか。彼らはなぜ今、監督デビューする必要があるのだろう?某映画誌ライター・A氏はこう語る。

「吉本はたぶん、松本さんのような大御所たちの活躍の場を、テレビから映画やアート関係にシフトさせ、その空いた席に後進の芸人たちを座らせようとしているんじゃないかな。それに今、お笑い芸人のテレビ出演者枠はかなりの競争率。ほかの媒体への活路を見いだそうというのも理由だろうね」

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北野映画は必ずしも興行収入がいいとはいえない。しかし、その才能は故・黒澤明監督が認め、世界中にファンを持つ。

 この意見は憶測の範囲内ではあるが、吉本がここにきて映画界に本格的に参入し始めているのは事実なのだ。まず、07年3月に松本人志の『大日本人』が公開され、その後事務所の所属芸人100組に映画を作らせる『YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100』なる短編映画制作プロジェクトも開始。その中で才能の発掘をしながら、今年は同社が協賛した「沖縄国際映画祭」を開催させた。"笑いと平和"をテーマに3月に行われた同映画祭は、吉本芸人たちが押し寄せたこともあり、約11万人の動員を記録した。記者会見で吉本興行・大崎洋社長は、「(08年に『大日本人』がカンヌ映画祭に招待された際)上映会場は満席で、爆笑が起きた。笑いが国境を超えることを実感した」と、国際映画祭開催の理由を語っている。そして、「タレントを夢に向かって走らせるための場作りのひとつ」として、吉本がこれまで以上に映画に力を入れ、芸人の監督業進出を奨励していくと明言した。

暇つぶしにしかならない!? 実力が伴わない芸人映画

 しかし、品川の『ドロップ』が興行収入20億円を超す異例の大ヒットを記録したにせよ、どの作品も、映画関係筋の評価はとても高いとは言い難い。それゆえ、警鐘を鳴らす人もいる。映画誌を手がける編集者・O氏は、吉本芸人の映画界進出をこう指摘する。

「『S-1』バトルや、『YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100』のように、テレビやケータイ、ネット配信で楽しむ程度の暇つぶしであればまったく問題ないと思う。でも、いきなり長編映画の監督をド素人の芸人に任せるのは無理」

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自伝小説『ドロップ』を原作に、今年は自らの役を成宮(寛貴)くんにやらせてスクリーンデビュー。やはり今の時代は、ヤンキーものが売れるのか。

 さらに「そもそも吉本は、所属芸人に片っ端から撮らせていれば、誰かが"第二の北野武"になってくれる可能性があると考えているところがあるが、そんなことはありえない。北野さんは数千本ものコントを通じて演出術を学び、監督デビューまでには俳優としても多くの現場を踏んだ。映画製作におけるベースを無視して二足のわらじを履かせ、芸人に映画を撮らせたところで、まともな作品になるわけがない」と続ける。


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それぞれ、日大藝術学部映画学科中退、構成作家経験多数と、期待したい経歴の持ち主なのだが……。じらさずに(!?)早く本領を発揮していただきたい。

 そんな手厳しい意見もあるが、来年早々にまたひとり、吉本芸人が監督デビューを果たす。吉本の中でも特異な存在として知られる板尾創路だ。これまでの吉本芸人監督とは違い、彼は近年、園子温監督の『愛のむきだし』や是枝裕和監督の『空気人形』など、続々話題作に出演し、個性派俳優として活躍している。新人からベテランまで多くの映画監督の現場を経験しており、大御所俳優やディレクターからの信望も厚い。場数を踏んでいるためか、映画関係者の間でも、彼の作品に対しては期待する声も高いようだ。実際、出来上がった作品『板尾創路の脱獄王』(10年1月16日公開)の評判は公開前から上々。配給の角川映画も、芸人監督の話題性ではなく、作品のクオリティの高さを売りに、宣伝を打ち出している。

 前出のO氏も「板尾さんは、脱獄映画というジャンルをちゃんと研究した上で、見せ場を作り、映画的なストーリーに仕立てている。北野監督級の衝撃的デビューではないが、板尾さんらしい、独特な作家性が発揮された怪作に仕上がっていると思う」と好意的だ。

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ここまでサイゾーも期待する板尾氏だが、今回諸事情あって取材はNG。万が一カンヌに行く際は、今度こそぜひ、取材させてください!

 また、『板尾創路の~』のクリエイティブディレクターを務めた山口雄大氏は「吉本サイドが板尾さんを高く評価していて、全面サポート体制を取ってくれたんです。國村(隼)さんや石坂(浩二)さんを呼べる予算も用意してくれましたしね。納得いく創作ができ、整った製作現場で挑めましたから、板尾さん本人もやり残したことはないんじゃないかな」と、吉本の寛容なバックアップがあったことを明かした。

 おそらく多くの映画監督がうらやむような、恵まれた環境で製作ができる吉本の芸人監督たち。しかし基礎がなければ所詮、話題を呼ぶのも初回のみ。板尾のように場数を踏ませてから世に送り出す忍耐力が、今後の人材育成に繋がるのかもしれない。とはいえまずは来春、お手並み拝見いたします!

(取材・文/水上賢治)
(絵/都築潤)

コントと映画は違いますよ、松本さん!
芸人監督たちの評価とは?

──数多くの映画を観てきた映画専門誌の関係者たちに、吉本芸人監督に対する辛~い評価を聞いた。今回座談会に参加してくれたのは、映画専門誌編集者(A)と映画ライター2名(BC)の3名。

A 先頃公開された松本人志監督の『しんぼる』(今年9月公開)は、使い古された映画的シチュエーションと、笑えないコントの連続に閉口だった。

B 昨年カンヌに行ったせいか、妙に海外向けを意識した、いやらしい目配せだけが目立ったね。興行的にも惨敗だったみたいだし。

C 松本の才能を信用して自由にやらせたことが裏目に出たんでしょ。今後はもっと、周囲の人間が一緒に企画や内容を練っていったほうがいい。

B 木村祐一が監督した『ニセ札』(今年4月公開)に関しては、話を手堅くまとめすぎた結果、面白くもなければつまらなくもない、全体的にこぢんまりとした仕上がりだった。

A 今回、自主的な監督作品ではなかったからね。キム兄はマルチに才能のある人だし、今度はオリジナルストーリーで勝負してほしいな。

C それに引き換え、ゴリが監督の『南の島のフリムン』(今年8月公開)は映画の体裁すらなしていなかった。彼は一応、日大藝術学部映画学科に在籍してたはずだけど……。

B そもそも、ゴリがボビー・オロゴンと金髪女を取り合って決闘するって内容を、誰が金を払って見たいと思うんだろう?(笑)

A インタビューで、「撮影期間が足りず、脚本を40ページも切った」と言ってたけど、低予算で撮るなら、吉本ももう少し制作環境を整えてあげるべき。

B あと、品川の『ドロップ』(今年3月公開)は、テレビ的なコントの掛け合いがそのまま映画で通用すると勘違いしている気が……。

C でも、水嶋ヒロの蹴り技は華麗だった!(笑) 品川なりに見せ場を作ろうとしてたところは、ほかの監督に比べてエライと思うけど。

A それと、この映画のヒットで思ったのは、ひな壇芸人のPR効果ってすごいんだなってこと。公開前、品川は自分がゲスト出演している番組で片っ端から映画をPRしていた。それになんとなくのせられちゃって観に行った若い子も絶対多いよね。


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