ネット配信で異例のPVを稼ぐ『Axis powers ヘタリア』(左)と『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』(右)。©谷川流・いとうのいぢ/えすおーえす団 ©ぷよ/えすおーえす団 ©えれっと/えすおーえす団
日本が世界に誇る文化であるアニメ産業にも不況の波は押し寄せているようで、来年以降、キー局の編成する深夜アニメ枠が大幅に減少するという噂さえささやかれている。そんな中、アニメ産業はテレビに代わる新たな媒体で活路を見いだそうとしているようだ。それがインターネット上で配信される「Webアニメ」である。
インターネットが普及し始めた2000年前後からWebアニメは断続的に発表されてきたが、近年、地上波やCSで放送されるアニメ並みに話題となる作品が出始めている。
その中でも特に注目されているのが、『涼宮ハルヒの憂欝』や『らき☆すた』など、多くのヒット作品を抱える角川書店の動向だ。
2008年、角川グループは動画共有サイト「YouTube」と提携し、公式ページ「角川アニメチャンネル」を設立。一定基準のもと、一般ユーザーがアップロードした、自社作品を使用したMAD動画(既存の音声や動画・などを個人が編集した作品)を公認し、『涼宮ハルヒ』シリーズの新作アニメもYouTubeで配信。さらにWebアニメ配信情報などを集めたポータル・サイト「アニメNewtypeチャンネル」を立ち上げるなど、積極的にWebを活用している印象がある。同社のこの方針について、角川書店メディア局局次長の矢野健二氏はこう説明する。
「YouTubeなどの動画共有サイトを含むCGM(コンシューマジェネレイテッドメディア)は、一昔前のコミケみたいなもので、単純に著作権的に違法だからといってMAD動画などを規制しても新しい才能は出てこないだろう、と考えています。また、地上波で展開する際にネックとなる提供料(テレビ局で番組を放送する枠の購入料)を考えないでいい動画共有サイトは、パッケージ商品を売る上で、テレビに代わる場だと見込んでいます」
また、現在モバイルサイト「モバイルアニメイト」、Webサイト「アニメイトテレビ」上で配信されている『Axis Powers ヘタリア』は、キャラクターソングCDがチャート上位に登場にするほどの人気ぶりで、2010年には劇場用アニメ化されることが決定している。「アニメイトTV」の運営会社・フロンティアワークス取締役の上玉利純宏氏は「アニメがすべてWeb配信になるとは思いませんが、一部ではWeb配信でのアニメもそれなりに定着すると思います」と語る。
Webアニメ
インターネット環境での公開を前提に制作されたアニメ作品のこと。近年ではテレビ放送並みの品質での配信も可能となった事で、企業の参入が相次いでいる。
その発言を裏付けるように、昨年より家庭用ゲーム機プレイステーション3向けに配信された『亡念のザムド』、地上波放送と同時に動画共有サイト「ニコニコ動画」に配信される『天体戦士サンレッド』などがWebアニメという形態で次々と配信されており、話題となっている。
角川書店によるWeb配信アニメ『涼宮ハルヒちゃんの憂欝』のDVDの売り上げも、「『ハルヒ』というタイトルの力もある」と前置きをしつつも、「テレビで放送してもまったく話題にならない作品よりは、ずっと売れています」(矢野氏)とのこと。
もちろん、「ネットは、いつでも見られる一方で、やはりまだテレビに比べると媒体力が小さく、またいつでも見られることが結局見ないことにも繋がるというデメリットもある」(上玉利氏)と語るようにいますぐ、完全に移行するというわけではない。
とはいえ、これまでは一部のコアなアニメファン向けのものという印象だったWebアニメが、テレビに次ぐ選択肢として数えられるほどのメディアに成長してきていることは確か。いずれアニメ市場の中心となる日も訪れるのではないだろうか。
(有田シュン)